軍用犬物語

斐芝嘉和

 

    一

 

 その年の春は例年より早く訪れた。

 まだ新学期が始まっていないのに校内の桜並木は満開となり、雪のような花びらをはら

はらと散らしている。見ているだけで気が急くような光景の中を、藤城亜梨子は早足で歩

いていた。

 亜梨子の通う此花女学院は、文武省直轄の女学校である。小中高一貫の全寮制で、生徒

のほとんどが良家名家の出身だが、亜梨子は違う。小学生の頃に両親を亡くし、以来校内

に併設された孤児院で育てられて来た。身寄りのない彼女にとって、学校は家であり町で

あり、世界の全てだった。理事長をはじめ教職員一同が親代わりであり、数多くいる女学

生の全てが姉妹だった。

 だから、寮室でくつろいでいるところに理事長からの呼び出しがあっても、少しも不安

を感じなかった。春の陽射しが結晶化したような花びらのシャワーを浴びながら、職員棟

に向かう。

「一年四組、藤城亜梨子です。ただいま参りました」

 理事長室の重い扉を開けると、中には理事長の他、高等部の校長と教頭、そして軍服を

着た厳つい顔の男が待っていた。部屋の空気はピリピリとしていた。冷や水を浴びせられ

たように、はしゃいだ気分が消えてしまう。亜梨子は首を竦めながら頭を下げ、しずしず

と入室した。

 教頭が勧めた椅子に、亜梨子は畏まって腰掛けた。室内の男たちは亜梨子の頭の先から

爪先まで、じろじろと眺め回している。粘り着くような視線に、亜梨子はポッと頬を赤ら

めた。ぴっちり閉じた腿の上に掌を重ね、モジモジとスカートを弄る。

「なるほど、このお嬢さんなら大丈夫だろう」

 唐突に、軍服を着た男が破顔した。ギョッとする亜梨子の前で、理事長や校長がホッと

息を吐く。緊張が解け、急に和やかな雰囲気になった。

「いや、恐縮です。前田大佐のお眼鏡に適うとは、光栄至極」

「藤城君は我が校の最優秀生徒ですが、大佐の要求に応えられるかどうか、甚だ不安であ

りました」

 阿るような理事長たちの物腰に、亜梨子は怪訝な顔になった。一体何が話されているの

か、少しも分からない。何とも言えない居心地の悪さを感じる。

「前田大佐は、文武省に提出された試案を我が校で試験的に実施するためにいらっしゃっ

たのだよ」

 ようやく亜梨子を思い出した理事長が、得意そうな顔で亜梨子に言った。亜梨子はぎこ

ちなく頭を下げる。父とも祖父とも思っている理事長が喜んでいるようなので嬉しく思う

ものの、まだ話が見えてこない。

 と、前田大佐がにこやかに微笑みながら、亜梨子に話し掛けてきた。

「順を追って話そう。戦線が膠着しているのは君も知っているね?」

「は、はい」

 瞳を覗き込まれた亜梨子は、紅くなりながらコクンと頷いた。前世紀から続く大戦は、

ここへ来て完全な膠着状態に陥っている。国連が静止衛星軌道へ打ち上げた2万6000

基の監視衛星によって、高度1000メートル以上を時速100キロメートル以上で移動

する航空物体はことごとく打ち落とされる。放物軌道を利用した遠距離砲撃も無効化され

るため、戦闘は限定的な局地戦の繰り返ししかできないのだ。膠着しない方がおかしい。

「これは軍事機密に属する項目なのだが、我が国は強化兵士を戦線に投入することを考え

ている」

 重々しい大佐の言葉に、亜梨子は引き込まれるように頷いた。思わず握り締めた拳が、

じっとりと汗ばんでいた。

 大戦に参加している国々は、さまざまな陸上兵器を投入して戦っている。自然資源が不

足している日本は、精兵をもってこれに抗するしかなかった。前田は「軍事機密」と言っ

たが、強化兵士の噂はずっと昔から巷間に溢れている。もし亜梨子がテレビを良く見てい

たなら、少年向けのアニメ番組で数多くの強化兵士を目にしていたことだろう。

「そこで、我々は日本全国の女学生を厳選し、君に白羽の矢を立てた、というわけだ」

「え?」

 いきなり話が飛躍して、亜梨子は目を丸くした。しかし前田大佐は全て話し尽くしたと

でも言いたげに、ゆっくりと頷く。

「これはとても名誉なことだよ、藤城君」

 理事長がニヤニヤしながら話を引き継いだ。

「前田大佐が探していたのは、知性、健康、容姿とも最高の女学生だ。書類審査の段階で

は実に二万人の候補者がいた。その中から、何段階もの篩い落としの結果、君が残ったと

いうわけだ」

「は、はあ……ありがとうございます」

 名誉なことだとは分かった。しかし、一体何に選ばれたというのか。

「君は前線がどんな場所か、想像できるかね?」

 再び前田大佐が話し始める。

「物資は常に貧窮し、衛生状態も最悪だ。密林の中には敵兵の他に、巧妙な罠や猛毒を持

つ蛇など見えない危険がたくさんある。我が国の兵士は精兵ばかりだが、常に緊張を強い

られているから精神的疲弊は避け得ない。そこに、君のような美少女が入る」

「び、美少女だなんて、そんな」

 ポッと頬を赤らめる亜梨子に、前田大佐は戯けた表情を見せた。

「照れる必要はない。事実なんだから。それより、想像して欲しい。劣悪な環境で日本の

ために戦っている勇敢な兵士たちが、その強靱な意志が折れてしまうほど疲弊している。

そこへ君のような美少女が入り、励ましたとする――どうなると思う?」

「そ、それは……嬉しくなる、ですか?」

 ずうずうしい答だと思いながら、おずおずと答える亜梨子。前田は満足そうに、大きく

頷いて見せた。

「そう。元気になること請け合いだ。ジャンヌ・ダルクは知っているかね? 巴御前はど

うかな?」

「は、はい。もちろん知っています」

「君にはそういう存在になってもらいたいのだ」

「こ、光栄です!」

 亜梨子は本心から喜び、整った顔を輝かせた。自分がお国のために働ける、と思うと、

胸がドキドキしてくる。

 前田大佐もつられたように、厳つい顔を綻ばせた。少し前屈みになり、亜梨子の顔色を

伺うようにして訊く。

「受けてくれるかな?」

「はい、もちろんです!」

 即答する亜梨子。前田が誓約書を差し出すと、良く読みもせずサインする。そして言わ

れるまま立ち上がり、右手を斜め前に挙げて宣誓した。

「よろしい。では、これを着けてもらおうか」

 前田は軍服のポケットから、短い革ベルトを取りだした。亜梨子の目には、犬の首輪の

ように見えた。亜梨子がおずおずと受け取ると、前田は当然のように言った。

「首に巻くんだ」

「え……で、でも……」

 亜梨子は蒼褪めて躊躇う。当然だ。首輪を着けるなどという屈辱を、何故受け入れなけ

ればならないのか。

 その鼻先に、前田は亜梨子のサインが書かれた誓約書を突きつけた。

「訓練中は私の指示に全面的に従う、と書いてある。宣誓までしたことだ。本当なら躊躇

うことも許されないんだぞ」

「そ、そんな……」

「私の指示に従わなければ、国家反逆罪を適用することになる」

 前田はスッと笑みを消し、腰のホルスターから拳銃を抜いて亜梨子の額に突きつけた。

「銃殺だ。どうする?」

「ひ、ひぃ……っ!」

 亜梨子の膝がガクガクと震えだした。頬が強張り、涙が溢れてくる。前田は無表情のま

ま目を眇め、カチリ、と撃鉄を起こす。

 亜梨子の足元に、アンモニアの芳香を放つ水たまりが広がった。

 

      二

 

 新学期が始まった。春期休暇を利用して里帰りしていた少女たちも戻り、校内は再び華

やかさを取り戻した。セーラー服に身を包んだ少女たちは満開の桜に祝福されながら、始

業式のために講堂へ入る。明るい談笑の声は、理事長が舞台の上に現れるまで続いた。

「皆さん、おはよう。こうして新しい春を皆さんと迎えられたことを、嬉しく思います」

 演壇に立った理事長はにこやかに話し始めた。だらだらと長いだけのつまらない話にも

関わらず、少女たちは神妙な顔をして聞き入っていた。私語をする者など一人もいない。

此花女学院の女学生たちは皆、素直で品の良い少女たちなのだ。

 三十分ほどして、ようやく理事長の話が終わった。さすがの良家の少女たちも、緊張が

解れた余波で少しざわめく。

「ところで――」

 普段ならすぐに舞台を降りるはずの理事長が、咳払いをしてから再び話し始めた。少女

たちは慌てて姿勢を正す。

「皆さんに大変名誉なお知らせがあります。我が校が文武省指定の特定研究校に選ばれ、

皆さんのお友達である藤城亜梨子さんが研究に協力することになりました!」

 晴れ晴れとした表情で言い放った理事長は、自ら拍手を始めた。つられて生徒たちも手

を打ち始める。万雷の拍手の中、舞台の照明が落ちて袖にスポットライトが当てられた。

講堂の中の視線が一点に集まる――。

 と。

「な、何?」

「きゃぁっ!」

 現れた亜梨子を見て、ざわめきと悲鳴が巻き起こった。

 スポットライトの中に現れた亜梨子は、スカートを履いていなかった。肩を窄め、両手

で股間を隠している。だが、丸い尻も滑らかな腿も、まるで隠れてはいない。細いうなじ

には首輪が巻き付き、太い鎖に繋がれていた。鎖の端は、スラリとした軍服姿の女性が握っ

ていた。軍帽を目深に被った女性は、細い犬鞭を提げていた。亜梨子がよろめくと、その

鞭が風を切って振られた。

 ピシリ!

 鋭い音に、講堂がシーンと静まる。少女たちが息を詰めて見守る中、亜梨子は顔を俯け、

腿を摺り合わせるようにしながら演壇まで来た。

「お座り!」

 女性軍人が低い声で命じると、亜梨子は演壇の横にペタンとお座りした。

「顔をお上げ!」

 ビシリ、と背に鞭が入れられ、亜梨子は顔を跳ね上げた。見つめる少女たちがアッと声

を上げる。亜梨子は大きなボールギャグを噛まされ、ダラダラと涎を垂らしていた。涙と

鼻水、涎と汗で、美しい顔が台無しになっている。苦悶に歪む顔に乱れた髪がペタリと貼

り付き、妖しい模様を描いていた。

「皆さん、初めまして。私は文武省特務課の小林少佐です」

 演壇のうしろに立った女性軍人がキビキビとした口調で話し始める。

「ここにいる藤城さんは、全国十万人の女学生の中から選ばれた、もっとも優秀な女学生

です。文武省は彼女に協力してもらい、大変重要な研究を始めることにいたしました。彼

女がこんな姿をしているのも、その研究の一環であります。驚かれたと思いますが、どう

か安心していただきたい。そしてこんな姿をしていても、これまで通り、皆さんのお友達

だと思って仲良くしていただきたい」

 そう言って、小林少佐はしゃがみ込み、亜梨子の口からボールギャグを外した。そして

鋭い声で「ちんちん!」と命じる。亜梨子は啜り泣きながら、犬のようにちんちんのポー

ズをとった。大きく開かれた股の間、隠すものの無くなった三角地帯に、煙るような和毛

の茂みがある。観衆の少女たちがざわめく。中には短い悲鳴を上げる者もいる。頬を赤ら

め、両手で顔を覆う者もいる。指の隙間から亜梨子を覗き見る者もいる。

(み、見られてる……っ!)

 足の裏を合わせるようなつもりで爪先立ちになり、踵の上に尻を降ろした亜梨子は、自

分の恥ずかしい姿に向けられた無数の視線に怯え、ギュッと目を瞑った。閉じそうになる

腿を必死に左右に開き、脇を絞って両手を胸の前に引き寄せて、ブルブルと震える。誓約

書にサインしてから今日までの短い期間に、犬としての基本的な動作をスパルタ式で教え

込まれた。セーラー服で隠された白い背には、生々しい傷跡がいくつも残っている。どん

なに恥ずかしくても、命令に逆らうことはできない。身体に刻み込まれた恐怖が、羞恥心

よりも強いのだ。

 小林少佐が亜梨子の頬にマイクを押しつけた。

「お友達に挨拶しなさい」

 低い声で凄まれて、亜梨子は教え込まれた口上を述べた。

「め、牝犬奴隷の亜梨子です。まだお勉強中なので何もできませんが、どうか見捨てず、

よろしく御指導ください……」

「よし、良い仔だ。お座り」

 優しく髪を撫でられて、亜梨子はホッと息を吐いた。お座りの姿勢に戻った横で、小林

少佐が身体を起こす。

「お聞きの通り、藤城さんはすでに人間ではありません。人前でこんな恥ずかしい格好を

する人間はいません。皆さんのように清く賢く美しい少女たちならなおさらです」

 小林の言葉に、亜梨子は真っ赤になった。顔を俯け、羞恥に肩を震わせる。目の前にい

るのは、ついこの間まで姉妹とも思っていた級友たちである。彼らと違う、と断言される

と、胸がキリキリと痛んだ。

 背を丸めて蹲りそうになる亜梨子を、小林は目敏く見つけ、チッと舌打ちしながら鞭を

振るった。背を強かに打たれた亜梨子は慌てて首を上げた。少女たちの視線を顔に受け、

恥辱に頬を濡らす。

「このように、藤城さんは人間であることを辞め、我々の研究に協力してくれています。

藤城さんは今や、文武省管轄下にある国有財産です。しかしながら、我々の研究にはさら

に、皆さんの協力が必要です。藤城さんはこれからも、この学校で飼われることになって

います」

 講堂のざわめきが大きくなった。亜梨子がしているような「協力」を求められているの

か、と、不安になっているのだ。小林は妖艶に微笑んで講堂全体を見渡し、ざわめきが自

然に治まるのを待った。

「――皆さんにお願いしたいのは、藤城さんを犬として扱うことです。もちろん、すぐに

できることではないでしょう。先学期までは皆さんの、人間としてのお友達だったわけで

すから。しかし、これからは違います。藤城さんは犬です。文武省の最重要研究課題とし

て、犬になってもらいます。とはいえ、これまで人間として暮らしてきた藤城さんに、急

に犬になれ、と言っても難しいでしょう。そのために、皆さんの協力が必要なのです」

 一旦言葉を切り、少女たちが理解するのを待つ。

「藤城さんが恥を忍んでこんな格好をしているのは、お国のためです。人間の尊厳まで捨

てて、犬になろうとしてくれています。皆さんもどうか、彼女に協力してください。彼女

を犬として扱ってください。皆さんが藤城さんを犬として扱えば、藤城さんはそれだけ早

く犬になれます。逆に、人間として扱えば、いつまでも人間のつもりで苦しむことになる

でしょう。藤城さんのためにも、彼女を犬と思ってください」

 小林の言っていることは、亜梨子にはデタラメに聞こえる。何のために、という部分が

抜けているからだ。しかし国のやることに対して「何のために」と問うことは、ともすれ

ば国家反逆罪になる。文武省絡み、軍の研究絡みとなれば、その確率は跳ね上がる。

「校舎の片隅に犬舎を作らせていただきました。藤城さんは今日からそこで、犬として飼

育されます。皆さんの犬です。可愛がってやってください」

 犬、犬、犬――。

 その単語が現れるたびに、亜梨子はビクッ、ビクッ、と首を竦めた。自尊心が音を立て

て崩壊していく。強烈な恥辱に眩暈を覚える。

「立て!」

 挨拶を終えた小林が、亜梨子の尻を叩きながら言った。亜梨子は腕をついたまま、膝を

伸ばして尻を持ち上げる。四つん這いで退場する亜梨子に、場内が再びざわめいた。

 ――本物の犬みたい。

 ――犬よ、犬だわ。

 小さな声が、亜梨子の耳まで届く。

 亜梨子はグッと唇を噛みしめ、丸い尻を左右に打ち振って舞台の袖に下がった。控え室

に戻ると、小林少佐がサッとしゃがみ込み、亜梨子の身体を強く抱き締めてもみくちゃに

しながら、手放しで褒めた。

「良い仔ね、亜梨子。良く頑張ったわ。偉いわね。おお、よしよし、泣かなくていいのよ。

初めてにしては上出来だったわ。最後は本当に犬みたいだった。偉いわねえ、良い仔ね。

よしよし、良い仔良い仔――」

 緊張の解けた亜梨子は、小林の肩に顔を埋めておいおいと泣いた。泣くことしかできな

かった。

 

      三

 

 犬舎は教室棟と職員棟の間に作られていた。コンクリートブロックを積み上げて作った

1メートル四方の小さな小屋で、天井も低い。中に入れば身体を丸めて寝るしかない。

 朝になると、各クラスから選出された飼育係が、亜梨子の犬舎にやってくる。牢屋のよ

うな鉄格子の扉を開けると、亜梨子はのろのろと這い出してくる。少女たちは亜梨子の首

輪に鎖を掛け、小屋の外へ引き出す。鎖も鞭も一本しかないので、取り合いになることも

しばしばだ。

 少女たちは小林少佐の言いつけを忠実に守り、亜梨子を犬として扱っている。はじめの

うちこそ戸惑いもあったが、勉強でも体育でも、さらには見た目でも敵わなかった優等生

の美少女を、犬のように扱えることが少女たちの嗜虐嗜好を刺戟し、すぐに誰もが亜梨子

を犬として見るようになった。今では亜梨子の鎖を引いたり尻に鞭を入れたりすることに、

暗い悦びを見出す少女の方が多くなっている。

 亜梨子はセーラー服を上しか着ていない。春先の早朝は息が白くなるほど寒いこともあ

るが、下半身裸の亜梨子は寒がってはいない。餌に混ぜられている体質改善薬が新陳代謝

を加速し、恒常体温を数度上げているのだ。

 少女たちに鎖を引かれ、亜梨子は校内を散歩する。犬のように四つん這いになり、膝を

地面に着けないようにして丸い尻を持ち上げ、左右に大きく振りながらヨロヨロと這う。

高くなった重心を支えるため、両脚は広く左右に広げられている。うしろからだと鳶色の

肛門も朱鷺色の性器も丸見えである。

 校庭を這いながら、ときどき亜梨子は這い止まり、片足を上げて小便をする。小屋の中

で小便を漏らすと飼育係からお仕置きされるし、第一臭くて臭くてかなわないので、ずっ

と我慢している。だから足を上げるとすぐ、濃く色づいた小便が音を立てて迸る。亜梨子

はようやく叶えられた排泄欲求に頬を弛め、幸せそうに微笑む。

 校庭を半周した場所に、築山が設けてある。そこは学校を取り囲む塀が一段低くなって

いて、外から覗き込めるようになっている。亜梨子は築山の下で少女たちに浣腸をしても

らい、山の上に登って塀の方に尻を向ける。そして通行人が見守る中、ブリブリと大便を

排泄する。下半身裸の美少女が、毎朝のように現れ、衆人環視の中で排泄をするのだ。す

ぐに話題が広まり、観客の数は日増しに増えた。今では亜梨子が現れると拍手や歓声が巻

き起こるまでになっている。

 羞恥がないわけではない。しかし浣腸液の引き起こす腹痛の方が辛く、亜梨子は毎朝飼

育係の少女に鞭で追われて築山の上に登る。そして下品な野次を背に受けながら、ブリブ

リと軟便を排泄する。大量の便とともに浣腸液を全て排泄してしまうと、腹痛は嘘のよう

に消える。緊張の解けた亜梨子は頬をホッと弛め、お尻を高く持ち上げて飼育係に汚れた

肛門を拭いてもらう。意地の悪い飼育係に当たると、ちり紙を肛門の中にまでねじ入れら

れてグリグリと拭かれることがある。それでも、汚物をこびりつかせているよりはずっと

マシだ。

「さあ、綺麗になったわよ」

 飼育係がそう言って拭くのを止めると、亜梨子は本心から礼を述べる。

「ありがとうございます、増山様」

 同級生でも下級生でも、亜梨子は全て様付けで呼ばなければならない。教師や飼育係は

もちろんのこと、それ以外の人間に対しても様付けで呼ぶことを強制されていた。亜梨子

は犬であり、どんな人間よりも劣る存在だからだ。

 築山から降りた亜梨子は、校庭の残りの半周をゆっくりと周り、最後にグラウンドの隅

にある洗い場で身体を洗ってもらう。ホースで冷たい水を掛けてもらい、石鹸とブラシで

汚れた身体を磨いてもらうのだ。セーラー服も一緒に洗う。犬の亜梨子に着替えは贅沢、

というわけだ。

 全身水浸しになった亜梨子は犬舎に戻され、特殊配合されたドッグフードを皿に盛って

もらう。飼育係の監視の中、手を使わずにそれを食べる。半生のドッグフードには各種栄

養素の他、体質改善用の薬やナノマシンなどが混ぜられている。それを食べるだけで人間

にはない知覚能力や運動能力、耐久力や回復力、さらには汚物からでも栄養を摂取できる

強力な消化能力が身に付くという優れモノである。

 もちろん、副作用もある。ホルモンバランスが崩れて生理は止まり、その一方で乳房や

尻がグングンと大きくなった。性欲が増進され、じっとしていても愛蜜が垂れてきてしま

う。不意に多幸感が沸き上がり、意味もなくへらへらと笑い出すこともある。食餌するだ

けで、亜梨子は日に日にいやらしい牝犬へ変わっていった。

 飼育係の少女たちが授業のために去ると、入れ替わりに文武省から派遣された技術将校

が犬舎にやってくる。彼らは亜梨子を引きずり出すと、鞭を振るって訓練を始める。

 初めのうちは、訓練のほとんどが体力作りだった。鎖を引いた技官がヒュンヒュンと鞭

を振るい、亜梨子にグラウンドを駆けさせる。四つん這いで全身を使い、グラウンドを何

周も走らせるのだ。他の生徒が体育の授業をしているときには、邪魔にならないよう校庭

の隅で走ることもあった。技官が投げるフリスビーを追い掛け、空中に飛び上がって口で

キャッチするのだ。できなければ容赦なく鞭が飛んだ。

 もともと運動神経の良かった亜梨子は、体質改善薬の効果もあってすぐにお仕置きを受

けないレベルにまで達した。美少女が四つん這いで駆け回り、俊敏に飛び上がってフリス

ビーをキャッチする様子は、見世物としても面白かった。放課には多くの少女や教師が見

学にくることもある。亜梨子は無数の視線を一身に集めながら、羞恥に頬を染めつつも軽

快に躍動した。

 基礎的な体力が身に付くと、今度は隠蔽物発見の訓練が始まった。校庭内に隠された罠

や宝物を探し出し、技官に知らせる訓練である。亜梨子は技官に鎖を引かれながら、地面

に顔を近づけ、必死に目を凝らした。目で見つけられない場合には鋭くなった嗅覚で探っ

た。技官の隠蔽技術は巧妙で、視覚だけではとうてい発見できなかった。校庭を一周して

見落としがあれば、その数だけ鞭打たれた。きちんと見つけることができるとその場で御

褒美がもらえた。

「よしよし、良い仔だ亜梨子。偉いぞ」

 褒め言葉とともにもらえるソーセージには、微量の興奮剤が混ぜられていた。亜梨子は

褒められるたびに悦びを覚え、ますます犬らしくなった。

 六月になると、蒸し暑さのためにセーラー服を着ていられなくなった。亜梨子はまるっ

きりの裸になったが、少しも恥ずかしくはなかった。長く伸びた髪で房が作られ、アナル

プラグに着けられて専用の尻尾ができた。それを肛門に挿し、大きく左右に打ち振ると、

技官も飼育係も手を叩いて嘲笑った。亜梨子は嬉しくなり、誇らしげに尻を持ち上げるよ

うになった。

 梅雨でぬかるむグラウンドには、生徒たちは出てこない。亜梨子は毎日のように技官に

連れ出され、泥まみれになりながら訓練に励んだ。体質改善薬と各種ナノマシンで強化さ

れた亜梨子の身体は、泥濘の中で転げ回っても病気になることはなかった。この頃から餌

は人糞や残飯に切り替えられたが、内臓を強化された亜梨子はどんなものでも平気で平ら

げた。もっとも、鼻を突く匂いにはいつまでも馴れることはなかったのだが。

 梅雨が明け、本格的な夏が始まった。

 七月の太陽が狂ったように照りつける中、亜梨子は毎日のようにグラウンドを四つん這

いで駆けていた。薬の副作用で色素が減り、髪は明るい栗色に変わり肌は雪のように白く

なっていた。多くの少女が日焼けに悩み、日に日に黒くなる肌を嘆いているのを横目に、

亜梨子は元気に太陽の下を駆けていた。健康的で悩みのなさそうなその姿に憧れる少女も

現れた。

 もちろん、犬に憧れることを屈辱と思う少女も存在した。屈折した少女の幾人かは、夜

中に寮を抜け出し、嫌がらせのつもりで亜梨子の犬舎に蛙や蛇や蜘蛛などを投げ込んだり

したが、亜梨子は御褒美と思って生きたままのそれらをパクパクと食べた。見ている方が

気持ち悪くなるような光景である。以来、亜梨子に嫌がらせをしようとする少女は一人も

いなくなった。

 こうして体力も能力も本物の犬以上になった亜梨子は、新しい訓練を始めることになっ

た。一人で、いや一匹で十人分の従軍慰安婦になるための訓練である。

 

      四

 

 亜梨子の目の前で、女性将校の小林少佐が前田大佐のペニスを舐めていた。切れ長の瞳

をうっとりと潤ませ、舌を長く伸ばして太い男根を舐め上げている。

 チャプリ、チャプリ……。

 前田大佐の大きな手が、小林少佐の艶やかな黒髪を優しく撫でている。ゆったりとくつ

ろぎ、幸せそうに目を細めている前田を見て、亜梨子は小林が羨ましくなった。

「分かったか、亜梨子」

 前田に訊かれた亜梨子は、勇んで頷いた。小林が手の甲で口端を拭いつつ、微笑みなが

ら場所を譲った。前田の膝の間にいそいそと這い込み、亜梨子は大きく口を開けて顔を近

づけた。

 パシリ、と頭を叩かれた。

「違うだろう? 挨拶をしてからだろう」

 亜梨子は首を竦め、額を床に擦り付けてブルブルと震えた。何人かいる技官の中で、前

田のお仕置きが一番きつい。傷の快復が早い亜梨子に三日も残る傷を刻むのは前田しかい

ない。

「謝らなくていい。小林がしたのを見ていただろう? それを真似して、挨拶してみろ」

「は、はい……」

 しばらく人語を話していないので、呂律が怪しい。久々に使う脳を必死に動かし、挨拶

にチャレンジする。

 まずは自分の身分を相手に知らせる。

「め、牝犬奴隷の亜梨子です……」

 ついで、自分の状態を相手に教える。

「小林少佐が御奉仕しているのを見て、亜梨子もしてみたくなりました……」

 そして最後に、全身全霊を込めて懇願する。

「どうか、お願いです。亜梨子に前田大佐の御肉棒を、ナメナメさせてください……」

 舌足らずな口調で言い切り、上目遣いで前田の顔色を伺う。その頭に、前田の大きな手

が振ってきた。

(叩かれるっ!)

 亜梨子はギュッと目を瞑り、首を竦めた。

 重い衝撃とともに、前田の手が亜梨子の頭の上に乗った。亜梨子は一瞬気が遠くなった

ような気がした。瞼の裏に火花が散り、鼻の奧がツンとなる。

「よしよし、良い仔だ。良く言えたな」

 前田はニヤニヤと笑い、乱暴に頭を撫でた。亜梨子はホッと息を吐き、褒められた喜び

に頬を弛めた。

「そら、やってみろ」

 ようやく許しを得た亜梨子は、跳ね起きるようにして前田の股間にしゃぶりついた。口

を大きく開き、唇を男根の根元に押しつける。チュウチュウと音を立てて吸っているうち

に、小林のやっていたやり方を忘れてしまった。硬いペニスの感触に導かれるまま、根元

から先までチュパチュパとキスをしていく。顔を横にしてハーモニカのように男根に吸い

付き、舌でチロチロしながら頭を動かす。

「お、巧いじゃないか。いいぞ、その調子だ」

 前田の声に励まされ、亜梨子は思いつくまま男根を舐め続けた。舌を広げて裏筋を舐め

上げ、舌先を尖らせてカリ首を掻く。亀頭の先を唇で挟み、舌先で尿道口をチロチロと舐

める。陰茎を握って固定し、真っ赤な果実のような亀頭をペロペロと舐め尽くす。

「もう十分だ。咥えろ。噛むんじゃないぞ」

 前田に言われた亜梨子は、大きく口を開いて男根を咥えた。ペニスは太く、歯を当てな

いためには顎が痛くなるほど開いていなければならない。

「唇を窄めて、おちんちんを支えるんだ――そう。舌を平らに広げて、内側で支える」

 言われた通りにしてみると、少し楽になった。

(さすが、前田大佐――何でも分かってるんだ……)

 亜梨子は嬉しくなり、柔らかく微笑んだ。信じられる人間の傍にいられる悦びに、身体

が火照る。

「ようし、そう。そのままにして、強く吸うんだ。音が立つほどに……おお、巧いぞ」

 優しく髪を撫でられながら、亜梨子はジュルジュルと音を立てて男根を吸い立てた。ペ

ニスは口の中で一回り大きく、熱く硬くなったようだ。力強い「男」を感じ、亜梨子の胸

がドキドキと高鳴る。

「前後に頭を動かして……そう、いいぞ、いいぞ。その調子だ」

 亜梨子はジュプジュプと音を立てて頭を振った。頬の内側の粘膜に、逞しい男根が擦れ

る。上目遣いに前田を見ると、大佐は幸せそうに頬を弛め、うっとりと目を細めていた。

亜梨子は嬉しくなり、さらに力を込めて吸い立てた。

 ジュプジュプジュプ……

「うっ!」

 突然、前田大佐が低く唸り、亜梨子の頭をガッチリと抑えた。腰を突き出すようにして

ビクビクと震える。亜梨子の中に生臭い匂いのする熱い粘液が迸った。

 強烈な臭気と大量の粘液に、亜梨子は咽せそうになる。それでも前田のお仕置きを恐れ

て、必死に口を開き続ける。

「……ダメだな。全然ダメだ」

 射精を終えた前田大佐は、亜梨子の額を突いて吐き捨てるように言った。亜梨子は口の

端から白い粘液を垂らしつつ、ブルブルと震える。一体何がいけなかったのか。あれほど

幸せそうにしていた前田が、どうして急に不機嫌になってしまったのか。いくら考えても

分からない。

「せっかく口の中に出してやったんだ。きちんと呑まないとダメだろう」

 低い声で言われて、亜梨子は慌てて口の中の粘液を飲み下した。濃い粘液は喉の内側に

べったりと貼り付き、息が苦しくなる。食道に塊がわだかまり、嘔吐しそうになる。ポロ

ポロと涙を流しながらどうにか嚥下するが、前田はまだ怒っていた。

「射精の瞬間に強く吸って、すぐに飲み干すんだ。でないと私が、こんな風に汚れてしま

うだろう」

 前田大佐はそう言って、腰を前に突き出した。男根が重々しく揺れて、涎まじりの精液

が糸を引いて飛んだ。飛沫が亜梨子の顔にべちゃりと貼り付き、イヤな匂いを放つ。

「小林」

 傍に控えていた小林少佐を呼びつけ、男根を舐めさせる。小林は勝ち誇ったような流し

目を亜梨子に向けながら、上官のペニスを愛おしそうに舐め上げた。

「分かっているな、亜梨子。お仕置きだぞ」

「ひ……っ!」

 蒼褪めた亜梨子は、額を床に擦り付けながら尻を高く持ち上げた。尻尾を左右に打ち振

り、必死に媚びる。だが大佐はますます腹を立てた。

「お前は、悪いことをしても謝らないのか? とんでもないバカ犬だな。今からお前の名

前はバカだ。いいな、バカ」

 屈辱に震える亜梨子。前田を綺麗にし終えた小林少佐が、スッと立ち上がる。

「お言葉ですが、大佐。このバカは言葉を喋ることを禁じられています。叱られても謝ら

なかったのは、そのせいではないでしょうか?」

「ふん、そうだったな。ではバカ、言葉を喋ってもいいぞ」

「わ、わん!」

 ありがとうございます、のつもりで、亜梨子は思わず犬のように鳴いてしまった。前田

と小林は声を合わせて嘲笑った。

「バカは本当に、どうしようもないバカ犬ですね。いえ、この方が犬らしくて良いかも知

れません」

「まあ、バカだからな。いきなり人語を喋れ、と言っても無理だろう。バカはバカらしく、

わんわん言っていればいいんだ」

 亜梨子は羞恥に頬を赤らめつつも、二人が機嫌を直したようなので嬉しくなって、へら

へらと笑った。弛緩した笑顔に、前田と小林は手を打って笑った。

「わんわん! わんわん!」

 嬉しくなった亜梨子は、命令されてもいないのにチンチンをした。大きく開かれた股の

間で熱く充血した肉花弁がポタポタと蜜を垂らす。

「仕方がない。小林、バカを散歩に連れていってやれ」

「畏まりました。さあ、バカ。おいで。お散歩よ」

 手招かれた亜梨子は、大きく尻尾を振って小林の足元へ這い寄った。

 

      五

 

「はい、我が町・新自慢、XXからはこちらのワンちゃんをご紹介しまぁす!」

 若い女性レポーターが手を振ると、カメラが亜梨子へ振り向けられた。冷たいレンズに

見つめられて、亜梨子はポッと頬を赤らめる。

 月曜日から金曜日の早朝に、全国各地のニュースを伝えている人気番組である。亜梨子

の恥ずかしい姿は電波に乗り、数十万世帯に届けられている。無数の視線を感じて、亜梨

子はブルッと身を震わせた。

「――ええ、そうなんですよ徳光さん。このワンちゃん、名前はバカちゃんなんですが、

半年前はこちらの此花女学院の生徒さんだったんです」

 見えない相手と会話しながら、リポーターが飼育係の少女にマイクを向ける。

「こちらの増山さんは昨年までバカちゃんと机を並べて勉強していた女の子です。増山さ

んの目から見て、バカちゃんはどんな女の子でしたか?」

「は、はい。明るくて真面目で、頭も良くって、みんなの人気者でした」

 増山は上擦った声で応えた。東京のスタジオからの声を聞いてから、それに応える。

「えっと、今は文武省の研究に参加していて、こんな風に犬みたいな格好をしています」

 カメラが回り込み、亜梨子の尻を映した。亜梨子は羞恥に震えながら尻を持ち上げ、尻

尾を振って見せた。教えられた通りにしたのに、何故だか笑われたような気がする。

「もちろん、バカちゃんが犬らしいのは格好だけではありません。では増山さん、お願い

します」

「は、はい!」

 増山がしゃがみ込み、真由美の肛門から尻尾を引き抜いた。紅く捲れ上がった肛門に、

今度は太い浣腸器を突き刺す。冷たい浣腸液が腹の中へ流れ込んでくる。沸き上がる腹痛

に顔を歪める亜梨子の上で、リポーターがキビキビと説明している。

「バカちゃんは毎朝、学校の中を四つん這いで、犬のように散歩しています。おしっこも

ほら、こんな風に足を上げて――ね、本物の犬みたいでしょう」

 モニターには別撮りした散歩風景が映っていた。撮影中にカメラマンたちに嘲笑われた

ことを思い出し、亜梨子の身体が火照る。

「本物らしいのはこれだけではありません。犬舎に戻ったバカちゃんを待っているのは、

御主人のリチャード君。ドーベルマンです! ねえ、大きいでしょう」

 モニターに現れたのは精悍な黒犬だった。すぐにカットが変わり、リチャードに抱えら

れた亜梨子が映る。尻を高く持ち上げた亜梨子は背を弓なりに反らせ、大きな胸を床に押

しつけて柔らかく歪ませていた。美しい顔は苦悶に歪み、栗色の髪は犬の涎でべっとりと

濡れていた。その隣では増山が、紅い顔をしながらインタビューに応えている。

『増山さん、バカちゃんは何をしているのですか?』

『セックスです。犬は大変力が強く、耐久力もあるので、こうしてセックスするだけで体

力作りになります』

『なるほど、これは大変そうですねえ』

 画面が切り替わり、浣腸の辛さに震えている亜梨子のアップになる。四つん這いで尻を

突き出し、垂れた髪に顔を隠してゆるゆると身悶えている亜梨子は、モニターを見る余裕

がなかった。腕の間で重そうに揺れる乳房がアップになり、硬そうに勃起した乳首がハッ

キリと捉えられている。もしそれを見たら、恥ずかしさのあまり失禁していたかもしれな

い。

「しかも! バカちゃんが犬らしいのはセックスやオシッコだけではありません。この築

山、何だと思います? ――実はこれ、バカちゃんのおトイレなんです!」

 浣腸を終えた増山が、リポーターの合図で亜梨子の背に鞭を入れる。亜梨子はキリキリ

痛む腹に顔を歪めながら、築山の上に駆け上がった。鈴なりの観客に向けて尻を突き出し、

ブリブリと大便する。リポーターがきゃーきゃーと騒ぎ出す。

「見て! 見て下さい! ほら。こんな風にウンチしてるんです! あちらにはあんなに

観客がいるのに、バカちゃんは平気でウンチをするんですよ!」

 ゾクリ。

 倒錯の愉悦が背骨を駆け上がる。観客の存在などすっかり忘れていた。その上今は、亜

梨子の排泄シーンは全国で見られているのだ。

(くぅぅっ!)

 亜梨子は羞恥に頬を染め、ブルブルと震えた。下腹に力が入り、最後の一滴まで絞り出

す。カメラには映っていないが、しゃがみ込んだ足元にポタポタと液体が滴り落ちている。

自分が放つ愛蜜の匂いに、亜梨子はますます恥ずかしくなった。

「ええ、そうなんですよ。バカちゃんは見た目とっても可愛いのですが、今はこんな風に

人前でも平気でウンチをできるお利口さんの犬です。こちらでは皆さん、朝早く起きてこ

うしてバカちゃんのウンチする姿を見に来ているんです。ねー!」

 リポーターの声に、鈴なりの観客が大声で応えた。亜梨子はブルッと震えて、築山から

降りようとした。

「あ、バカちゃんは散歩の途中なんで、こちらからは以上です! 次は名古屋の田中さぁ

ん!」

「OKでぇす!」

 スタッフの声で、パラパラと拍手が起きた。亜梨子は逃げるようにして築山から這い降

りた。

 

 朝食はテレビクルーたちの精液だった。校舎の影に椅子を並べて座ったクルーたちの間

を、亜梨子は這い回ってペニスを頬張った。

「お、巧いな」

「これはいい」

「可愛いだけじゃないんだ」

 次々と昇天させていくと、亜梨子に讃辞が向けられた。鎖を握るのは飼育係の増山では

なく、前田大佐である。薄笑いを浮かべながら亜梨子の尻にピタピタと鞭先を当て、低い

声で言う。

「あんまり褒めないで下さい。バカがつけ上がります」

 クルーたちに褒められて嬉しくなっていた亜梨子は、慌てて気分を引き締めた。

「それより大佐、これはどういう研究なのですか?」

 亜梨子の奉仕を受けられない女性リポーターが、顔を赤らめてモジモジしながら訊ねた。

前田は唇の端を吊り上げ、凄味のある笑みを見せる。

「軍事機密に関わることですから、聞かないで下さい」

「は、はあ……でも、全国放送してしまいましたよ? それはいいんですか?」

「ええ、構いません。それも戦略のうちです」

 話を切り上げようとした大佐は、ふと思いついたようにリポーターに向き直った。顔か

ら笑みを消し、真剣な表情でリポーターの瞳を覗き込む。

「もし記者根性を出して探り始めたら、牝犬奴隷二号は貴女になりますよ」

「ひっ!」

 蒼褪めたリポーターに、スタッフたちの好色そうな目が向けられた。裸になったリポー

ターが男たちの間を這い回り、尻を振りつつ必死に媚を売っている様子でも想像したのだ

ろう。

 男たちのギラギラした瞳を代表するかのように、前田は低い声で凄んだ。

「その場合、文武省ではなく陸軍省からの徴兵になります。拒否権はありません。よろし

いですか?」

 気圧されたリポーターは目に涙を浮かべながら、カクカクと頷いた。

 

      エピローグ

 

 一年間の訓練後、亜梨子は試験的に前線へ投入された。膠着した戦線を劇的に変えるほ

どの戦果は挙げられなかったが、試験結果は上々だった。

 戦闘に際しては俊敏に行動し、巧妙に隠されたトラップを発見して兵士達に知らせたり、

単独で敵の陣地を強襲して陽動任務を成功させた。密林の中に突如現れた、四つん這いで

駆け回る白い美少女に、敵兵は算を乱して混乱し、まともな組織行動を取ることができな

くなったのだ。

 また、束の間の休息では兵士達の慰安をし、前線に蔓延していた厭戦気分を払拭した。

数十から数千の兵の中に亜梨子はたった一人だったので、より多くの戦果を挙げた者しか

亜梨子の慰安を受けることはできなかった。そのため、全ての兵士が奮い立ち、勇敢に戦

うようになった。

 経済的にも、亜梨子は高い効率を示した。兵士の食料を消費せず、加えて衛生上問題と

なる排泄物を消費してくれるのだから薬品等の節約にもなった。

 牝犬奴隷一号・通称「バカ」の成功に気を良くした陸軍省は、文武省と協力して日本全

国の全ての女学校に犬舎を作った。そして毎年一名ずつ、知性・健康・容姿に優れた美少

女を牝犬奴隷として調教するよう通達した。実施一年目には各地で論争が巻き起こったが、

調教を受けた少女たちが前線で活躍するに至って反対する声は消え、逆に牝犬奴隷を賞賛

する声が上がるようになった。

 前線でお国のために身体を張る美少女たちは、同年代の少女たちの憧れとなった。何し

ろ、牝犬奴隷として調教されるためには知性・健康・容姿の全てに置いて他より抜きん出

ている必要があるからだ。その上、裸で屋外を這い回る少女たちは躍動美に溢れ、人間で

あったときよりも一段と美しく見えるのだ。

 亜梨子が戦場に身を投じてから五年も経たないうちに、日本中の少女たちが自主的に、

犬になろうと四つん這いになった。自ら首輪を巻き、肛門から尻尾を生やし、鎖に繋がれ

て男に奉仕するようになった。前田大佐の発明した特殊配合餌が民間にスピンアウトされ、

家庭でも手軽に牝犬が作れるようになった。アパルトメーカーはこぞって尻尾を作り、少

女たちの犬化に拍車を掛けた。

 日本中に牝犬が溢れる状況となり、文武省と陸軍省は牝犬奴隷の呼称を「軍用犬」に改

めた。同時に全ての女学校を牝犬訓練所に改造した。入学条件を緩くする代わりに、訓練

所をトップの成績で卒業した者だけが「軍用犬」になれる。こうして裾野を広げつつ選定

基準を明確にすることで、前線への軍用犬の供給率は飛躍的に上昇した。

 二十八歳になった亜梨子は、軍役を解かれて本土へ戻ることができた。激しい戦闘のた

めに両腕の肘から先と両脚の膝から先を失い、戦闘任務に就けなくなったことも引退の理

由の一つだ。亜梨子は本土へ送還される飛行機の中でもパイロットや機関士に献身的に奉

仕し、そのことが美談として喧伝された。

 本土に戻った亜梨子にはたくさんの勲章が与えられた。それらの勲章は左右の乳房やヘ

ソ、クリトリスや陰唇にピアッシングされた。授与式のあと、大恩人である前田大佐の男

根を肛門に挿入てもらって嬉しそうに微笑んでいる亜梨子の姿は、小学校の修身の教科書

に必ず載っている。

 その後の亜梨子は、前田大佐の飼い犬として幸せな晩年を迎えた。厳しい訓練と過酷な

軍役故にか、余生は短かったが、前田の腕の中で息を引き取った亜梨子は実に幸せそうに

微笑んでいたという――

 

      (完)

 

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