OLの美也子は昨日、恋人に振られました。両親と死別し、親しい親類もいない美也子です。彼はこの世でただ一人、心の拠り所となる人でした。「彼と死ぬまで一緒にいたい」。そう思っていました。あまり幸福ではない境遇に育った彼女にとって、恋人はとても大切な存在だったのです。それが何の前触れもなく、突然に別れを告げられました。
「他に好きな人が出来て結婚を申し込むつもりなんだ。これまでのことは忘れて、どうか別れて欲しい」
呼び出された喫茶店で、凍りつくようなセリフを聞かされます。お相手の女性は美也子も知っていました。同性から見ても魅力的な女性です。彼女が相手と知り、容姿コンプレックスの強い美也子は取り乱してしまいました。
「お願い、私を二番目の女にして」
彼と別れたら一人ぼっちになってしまいます。絶対に別れたくない美也子は、泣いて彼にすがりつき懇願しました。しかし、
「それはできない。どうか勘弁してほしい」
潔癖な彼から、みじめに拒否されてしまいます。
美也子は運命を呪い、絶望しました。その日はどうやって家に帰り着いたか覚えていません。気がついたら一人暮らしのアパートのお布団で、目を真っ赤に泣き腫らして夜を明かしていたのです。両親も兄弟もなく、慰めてくれるお友だちもいません。決して若くはない二四歳の美也子は孤独でした。これからの事を考えると、心細くて仕方ありません。
会社をさぼり、一日何もせずに布団で死んだようになって眠り続けました。
「このまま何も食べずに死んでしまえたら楽になれるのに」
そんなことも思った彼女ですが、死ぬのはやっぱり恐いです。日が暮れるとお布団からゴソゴソと這い出し、外しっぱなしにしていたメガネを一日ぶりにかけて、食べる物を買いに出かけます。深夜営業スーパーまでトボトボと歩いて行きます。
スーパーの入口前のガードレールに、真っ白なプードル犬が繋がれていました。背中をピンと伸ばしたとても良い姿勢で、ご主人が買い物を終えるのを待っているようです。
買い物を済ませた美也子が店を出ると、ちょうど一匹の美しい女犬を連れた男性が買い物に来た所でした。プードル犬の隣りに首輪のリードを結びます。年の頃は二七〜八でしょうか、きれいな仔なので若く見えますが、もしかしたら三十歳を過ぎているかもしれません。とても品のある美しさを持った婦人犬です。美也子はこんな上品な女犬を見たことがありませんでした。興味を引かれ、しばらく彼女を眺めていました。
長く伸ばした髪をひっ詰めて後頭部にまとめ、晒した細くて真っ白なうなじが育ちの良さを物語っています。肩も鎖骨も薄く華奢で、少し乱暴に扱えばすぐに折れてしまいそう。お乳は形良く大きな膨らみを見せています。お顔は、眼も鼻も口も、小作りに品良くまとまっていて、優しげな、虫も殺さぬといった風情です。
まだ犬になって日が浅いようで、一匹にされたのが恐いのか、お顔をキョロキョロさせて不安そうに周囲の様子を伺っています。きっとどこか良家の若奥さまが女犬となり、飼われているのでしょう。
周囲の観察を終えて少し落ち着いた彼女は、姿勢良く座っているお隣りのプードル犬を注意深くうかがいます。機嫌を損ねないように姿勢を低くし、上目使いに彼を見上げます。そして小さな舌を出しながら小首を愛らしく二〜三度振って、位が下の犬がする挨拶をします。新米畜生らしい彼女は、動物界の先輩に「隣りに座ってもいいですか」と、お伺いを立てているようです。
プードル犬が「どうぞ」と肯定するような仕草を見せると、彼女は彼にぴったり並んで後足を揃え、艶々の真っ白な膝小僧をキチンと合わせます。そして前足を前の地べたにつき、大きな胸をグッと張り、お顔を正面に向けて姿勢を安定させました。よくしつけられた「お座り」です。プードル犬にお行儀で劣ったら、きっとご主人の機嫌が悪くなるでしょう。一生懸命に良い姿勢を保とうとしているのが解ります。
彼女の沁み一つない真っ白なお肌は、プードル犬の光沢ある良く手入れされた白い毛並みと比べて、甲乙つけがたい美しさです。おっぱいがとても大きい上品な顔立ちの婦人犬が、丸はだかでプードル犬と並び、競うようにお行儀良くお坐りし、ご主人の買い物を待っている図は、道行く人の目を引きます。ほろ酔いのおじさんたちにジロジロと露骨におっぱいを見られたり、「チンチンしてみろや」と声をかけられたりしています。
そんなからかいに、最初は張り切って正面に向けていたお顔も、段々下を向いてきます。堂々と張っていた胸も、隠すような態勢になりがちで、何度かエイ、と恥ずかしげに張り直すのです。いい心持ちの酔っ払い二人組が通りかかりました。その酔っ払いに肌を触られると、彼女は恐さと恥ずかしさで、美しいお顔をクシャっと崩し、きれいな瞳から涙を流してベソをかき出してしまいます。
しばらくして、ようやく買い物を終えたご主人がお店から出て来ました。飼い主の姿を視界に捉えた途端、泣いていた彼女のお顔がパッと明るく輝きます。よほど心細かったのでしょう、ガードレールからリードを外してくれるご主人の足に、嬉しそうに身体中をこすりつけて甘えているのです。肩、頭、大きな胸、それに大きなお尻までこすりつけています。
落ち着いた雰囲気の婦人犬の無邪気なはしゃぎぶりに、ご主人はちょっと戸惑います。でも愛犬の涙に濡れたホッペタに気がつくと、しゃがみ込んで頭を撫で、誉め始めたのです。
「よしよしショコラ、恥ずかしいのを我慢してお座りしていたんだね。お店から見ていたよ。しつけた通りにお行儀良くできていたぞ。ショコラは恥ずかしがりやさんなのに偉かったね。私の所に来て三ヶ月だが、ようやくお前の元の亭主にも自慢できるしつけが身に付いてきたようだ。今晩は特別に、家の中で寝させてあげよう。ご褒美にベッドでうんと可愛がってあげるからね」
元は誰かの人妻だったらしいショコラは、「ベッドでうんと可愛がってあげる」と告げられて、喜びを隠そうとしません。少し年長のご主人の端正なお顔を長い舌でペロペロと舐めて、嬉しさを表しています。
そうしてガードレールから解かれたショコラは、ベッドでのご褒美が待ちきれないと言わんばかりに、お尻を誇らしげに高く持ち上げて大げさに振りながら、リードを持つご主人に寄り添い、引かれながら帰っていったのです。
最後まで見ていた美也子は、心臓がドキドキです。みじめにガードレールに繋がれていた女犬に、同情や嫌悪ではない別の感情を持ったのです。そう、美也子はショコラがとても羨ましかったのです。美しく成熟し、とても上品な立居振舞いの仔ですから、もし人間だったら理性やプライドが働いて、例え夫と二人きりの場所でも、あんな手放しに甘えることはしないでしょう。
女犬に落ちていればこそ、人目など関係なく、あんなに幸せそうにベタベタと甘えられるのです。家畜であればこそ、元は慎み深い人妻であったろう彼女も、家に帰って性交してもらえる嬉しさを隠そうともせず、お尻を高く持ち上げ、丸見えの性器を左右に振りながら、ペタペタと往来を歩けるのです。
そして何よりも・・・飼い主は決して愛犬を裏切ったりはしないでしょう。人間の男のように、他の見栄えの良い犬が擦り寄って来たからといって、ポイとボロ雑巾のように捨てたりはしないでしょう。どんなに恥ずかしくても、命令を守ってお座りして待っていれば、ご主人は必ず迎えに来てくれるのです。そうしたら思いっきり甘えればいいのです。ご主人はきっと優しい声をかけて、頭をクシャクシャに撫でてくれるでしょう。
人間の恋愛のような「駆け引き」も「裏切り」もありません。愛情に飢えていた美也子は、そんな女犬の有様がとても羨ましかったのです。
いつのまにか美也子は道ばたで泣いていました。メガネをはずし、手で拭うのですが、まるで涙腺が壊れたみたいに次から次へと涙が流れ出てきて、いつまでたっても止まりません。美也子は誰かが迎えに来てくれるのを、先ほどのショコラのように、プードル犬の横に立って待っていました。でも美也子には、ショコラの飼い主のような優しいご主人はいません。どんなにここで待っていても、誰も迎えに来てはくれないのです。
美也子は「女犬になりたい」と思いました。
(2)女犬になるために
美也子の畜化願望は、日を増すごとに強くなりました。元々依頼心の強い性格で、恋人に振られて自信を無くしていた彼女は、「家畜になるのが自分にはお似合いよ」と、本気で思い込み始めます。
「女犬になって、ご主人さまに沢山の愛情を注いでもらいたい。もうそれしか心の寂しさを癒す方法はない」
孤独に耐える力の無い、脆弱な精神の彼女が、そう思いつめるのに時間はかかりませんでした。
「私は理想のご主人を絶対に見つけられる」
そんな根拠のない自信だけが強まってきます。
どうしたら女犬になれるのでしょう。色々調べてみると、志願して女犬になるには、区役所の戸籍課に女犬志願の届けを出して、家庭裁判所の許可を貰えばいいようです。さっそく美也子は区役所に出かけました。
「女犬志願書」を窓口の若い女性に提出する時、手が震えました。事務的に受け取った彼女は、露骨な好奇の目を美也子に向けて、書類を確認します。
「あなたが女犬志願者の本人ですね?」
「はい・・そうです」
少し俯き加減にお返事をしました。やはり人間としての資格や人権、プライドを放棄して、卑しい家畜になることを願い出るのは羞恥心が掻き立てられます。周囲の人も、知らん顔をしながら聞き耳をそばだてているに違いありません。窓口の女性は、書類が間違いなく本人によって書かれた物であることを確認すると、
「ではこちらにどうぞ。カウンセラーが面接を行います」
と告げます。小奇麗な応接室に通されました。カウンセラーは少し年配の男性です。小一時間、小さい頃の家庭環境や女犬志願の動機などを聞かれます。質疑応答が済むと、その後は親身になって話を聞いてくれました。
「女犬になる手続きは簡単です。この書類が受理されて裁判所の許可が出れば、すぐに施設に入所し、家畜化の為の投薬処置がなされます。一ヶ月で可愛いワンちゃんになれますよ。ただし、承知されているとは思いますが、一生元の人間には戻れません」
「手続きは簡単なんですね。全然知らなかったです」
「女犬志願をするなら手続きよりも、その後の段取りを間違いなく済ませておくことのほうが大切です。一番大切なのは飼い主です。両親、親戚関係、配偶者、婚約者などの親近者が希望して、家庭裁判所がその中から最も適した人を選んでくれます」
「先生、私には両親も親しい親戚もいないのですが」
「女犬志願する前なら、お友だちや信頼できる方を、自分の飼い主として推薦できます。その場合、家庭裁判所は最優先でその人を選んでくれます。通常は飼い主になられる方の飼い主登録を、女犬志願時に同時に済ませます」
「もし事前に飼い主登録をしてくれる人がいないのに女犬になったら、どうなるのですか」
「志願される方の場合はあまり例がありませんが、その場合は施設が里親を探してくれます。今は女犬不足ですから、里親が見つからないということは、まずないですが、しかしどんな飼い主に当たるかはまったく解らないですよ」
「里親探しって、どんなことをしてくれるのですか?」
「ペットを求めてる人が足を運ぶ展示会に毎日展示されて、直接選ばれます。それ以外にも、専門誌やインターネットで、写真やプロフィールが全国規模で紹介されます。北の果てに貰われて、一年中雪に埋もれて生活するか、南の島で蟹と戯れて暮らすかは、神のみぞ知る、ですな」
「もし里親が見つからなかったら?」
「その場合は野良犬の扱いと同じになるので、保健所に連れて行かれて薬殺処分・・・と言われていますが、実際には女犬不足の昨今、簡単には処分されません。どうしても引き取り手が見つからない事情、例えば病気だとか、身体に欠陥があるとか、性格が凶暴だとかの欠陥がなければ、心配することはありません。万が一、時間がかかるようでも、見つかるまで施設に面倒をみてもらえます」
「私は時間がかかりそうですね。全然可愛くないし・・」
悲しげな美也子の呟きに、カウンセラーは優しく言います。
「いやいや。失礼ながらあなたの容姿なら、きっと可愛らしいワンちゃんになれますよ」
「そんな、お世辞なんか言わないでください。自分の容姿のみっともなさは、自分が一番良く知ってますから・・鼻は低いし、出っ歯だし、チビで幼児体型だし・・」
容姿コンプレックスの強い美也子は、言ってるうちに泣きそうになってしまいます。ところがカウンセラーは、それは違いますよと説明してくれました。
「人と犬では、器量の基準が違います。失礼ですが美也子さんは、人としての器量は公平に言って“並”ですね。美人とは言えないし、ブスと陰口を言われる程でもない。典型的な“どこにでもいるタイプ”でしょう。でも、犬としてみれば、あなたがコンプレックスを感じてる「鼻ペチャ」も、「細い目」も、「飛び出し気味の前歯」も、「背の低さ」も、「短い足」も、「貧乳」も、ペットとしての愛嬌いっぱいじゃないですか」
なるほど、そんなものかな、と美也子は思いました。
「それに何より大事なのは性格です。あなたの従順な性格は、きっと未来のご主人を満足させますよ」
「従順な性格」は彼女も認識していました。でもそれは程度の問題で、「依頼心の強い従順さ」は、人間同士の付き合いでは「鬱陶しい」と敬遠されがちなのです。でも、女犬になれば、そんな心配はなさそうです。思いもかけない嬉しいことを言われて、彼女は自信を深めました。
「先生、私は施設に里親探しをお願いしたいのですが・・」
「里親探しを施設にまかせるなら、肝に銘じておかなければならないことがあります。それは
“女犬になった後に施設に任せたことを後悔しても、やり直しは効かない”
ということです。どんな方が飼い主さんになってくれるかは解りません。一旦犬になって飼われてしまえば、あとの運命は飼い主さん次第です。飼い主の事情で譲られたり売られたり、捨てられることだってあるのですよ」
「大丈夫です。私は信じています。きっと理想のご主人さまが迎えに来てくれます・・」
「期待が外れて、理想とは程遠い飼い主に飼われても、やり直しは効かないですよ。そのことは充分に理解してますね?」
「はい。私は自分の運命を信じていますから」
しっかりとした口調で答えます。彼女の決意が固いのを見て取ったのか、カウンセラーもそれ以上は何も言いませんでした。
「ではこの志願書は受理させていただきます。一週間後に家庭裁判所から呼び出しを受けますから来所してください。そこで最終確認がなされて、その日のうちに施設に入所します」
少しやけ気味であることは否めないでしょう。恋人に裏切られた運命を呪い、かえって運命に挑戦するような気構えで、理想の飼い主に飼ってもらえる事を、無理に信じ込もうとしているのです。しかし美也子が女犬になり、施設に里親探しをしてもらうことは、この時に事実上決定してしまいました。
一週間後、会社を辞め、アパートを解約して身の回りの荷物を処分し、身辺の整理をした美也子は家庭裁判所に向かいました。指定された窓口で用件を告げると、
「女犬志願の方ですね。裁判官がお待ちです」
連れて行かれた小法廷には、裁判官のほか、何人もの役人が控えています。美也子はソファに座るように促がされます。そして本人であること、女犬になる意思が固いことを何度も確認されました。何種類もの書類が用意され、いくつもの判が押されます。それらの書類を全て確認し終えた裁判官が、全員を見渡して厳かに宣言を行いました。
「それでは必要書類が揃いましたので、ここに宣言を行います。本日ただ今をもって、田村美也子さんは人権を剥奪され、家畜と同じ扱いになりました。美也子さん、あなたはこれからは犬として、人間によく仕えて生きてください」
裁判官の宣言が静かに終わると、大柄な女性係官が入室してきます。役人が命令します。
「この者は志願によりたった今、女犬と同等の身分になりました。女犬志願者特別処置法第百三条により、投薬処置を行い、身体の改造を行います。速やかに施設へ送致してください」
女性係官が美也子に「立て」と命令します。オズオズと立ち上がる彼女を後ろ手に拘束し、胴輪を結びます。
「あ、これは・・」
「騒がないように。あなたはたった今、家畜になったのよ。私の言うことが聞けないなら、ムチで叩きます」
係官に少しの妥協も無く言われ、美和子は生まれて初めて家畜扱いを受けました。周囲の男たちは「ヤレヤレ終わった」とばかりに身支度をして、帰る用意を始めています。誰も美也子に気をかけてくれる人はいません。急に不安感で一杯になりました。
「歩け」
係官がまた簡潔な命令を出します。美也子は胴輪に結ばれた引き綱を引かれながら、心細い思いを振り切るようにして、送致バスへ向かいました。
(3)施設での生活
施設は病院のような作りになっていて、到着した美也子は、まだ少女らしい年齢の娘と一緒に大部屋へ入れられました。六つほどベッドが置かれていますが、二人の他には誰もいません。初日は簡単な身体検査をされただけで就寝です。
少女は身体検査をかなり嫌がっていました。どうやら女犬であることを発見されたばかりで、まだ自分が家畜になった現実を受け入れられないのでしょう。大抵の女犬は美也子のように志願ではなく、自然に変化したのを発見され、この施設に隔離されてくるのです。そして拒否反応を抑え、スムーズに女犬への変化を促進させるお薬を投与されるのです。
その夜は遅くまで、少女のすすり泣きが病室に響いていました。
翌日、午前中に最初の治療です。お尻を突き出しなさいと命令され、股間部にお注射をされます。思ったよりも小さな注射器の針が、チクリと性器の周辺に刺さります。美也子はこれで、後戻り出来ない身体の変化を受け入れたのです。
少女への治療は大騒ぎでした。注射をされまいと悲鳴を上げ、大暴れをして頑張るのです。しかし看護婦さんに三人がかりで押さえつけられると、非力な少女の抵抗ははかないものでした。お尻を高く上げさせられます。注射器が迫ると、まだ成長中の小さなお尻をブルンブルン振って、針をマトに当てさせまいと必死です。
看護婦さんたちは手馴れたものでした。少女を暴れるだけ暴れさせているのです。少女の体力ではすぐに力尽きて、大人しくなることを知っているのです。やがて思惑通り少女は力尽き、抵抗は弱まります。その代わりに鳴き声は一層高まりました。哀切極まる調子で訴えます。
「お願いです、犬になるお注射はやめて。ね、やめてください。私は犬なんかじゃありません。検査は何かの間違いだったんです。本当です、信じてくだ・・あ、やめてください。お願いだからやめてください! あっ、あっ、ああ! イヤだあ、お願い、堪忍してえ」
哀願むなしく、注射針はきれいなピンク色をした肛門のすぐ下を貫きました。
「あっ・・」
その瞬間、声を詰まらせます。薬液を注入されている間中、嗚咽を漏らし続けます。針が抜かれるとシーツに突っ伏して、身も世も無いとばかりの号泣を始めました。
そんな彼女を医師と看護婦さんたちは完全に無視しています。キビキビと後始末を終えて、次の部屋に行ってしまいました。
少女が看護婦さんたちをてこずらせたのは、この初回の治療だけでした。女犬化促進のお薬を一度受けてしまい、諦めてしまったのでしょうか。暴れても無駄と知り、次の治療からは震えながらですが、素直にお尻を上げて注射を受けるようになりました。
美也子は一週間もすると、施設での生活にすっかり慣れました。食べ物は一切与えられず、食事は全て点滴で済ませます。この点滴には栄養だけではなく、女犬化のためのお薬も混じっているのだと思います。意外だったのは、一日に何度か点滴針に繋がれるだけで、想像していたような拘束は一切ありませんでした。トイレも個室でさせてもらいます。お風呂も浴槽を使います。少なくとも日常の生活で、女犬扱いはされませんでした。
少女は大人しく毎日の治療を受けています。お注射を受けるたびに、犬に近づいていくのですから、もうすっかり諦めてしまったのでしょう。
施設はとても広いようです。自分の部屋からは出られませんから、他の部屋がどうなっているかは全く解りません。夜中に女の子の悲鳴が聞こえてくることもあります。バタバタと廊下が騒がしくなり、女の子が哀れな声を上げながら、どこかに連れて行かれる様子が伝わってくることも度々です。その度に少女は怯えて、お布団にくるまってしまいます。
いったい他のお部屋は、どうなっているのでしょう。興味を引かれた美也子ですが、ついに彼女が施設にいる間には、他のお部屋のことを知ることは出来ませんでした。
美也子は少女とポツポツと話をするようになり、彼女の身の上を知るようになりました。少女の名前は「遠藤えりこ」ちゃんといって、まだ高校生なのだそうです。うんと勉強して、将来は外国語の通訳になって、いろんな国で仕事をするのが夢だったそうです。幼な顔の割に、とても意思の強そうな目をしています。勉強は好きで成績も良かったそうですから、もし人間のままだったら、きっと夢をかなえていたことでしょう。
「私、きっと実家では引き取ってもらえないわ。田舎だから、パパもママも世間体を気にするの・・」
「誰に飼ってもらえるかは、決まっているの?」
「わかんない。結婚してる伯母さまが引き取ってくれたら嬉しいんだけど・・。子供の頃から仲良しで、とっても優しい伯母さまなの。そうなったら私、伯母さまに頼んで人間に戻してもらうわ」
一度、女犬の烙印を押されたら、決して人間には戻れないことを美也子は知っています。でもこの無邪気な少女のはかない希望を砕くようなことは、彼女には言えませんでした。
入所して三週間が経過しました。一通りの治療スケジュールは終了し、里親探しのスタートです。まず雑誌やインターネットに載せる為の、写真を撮られます。施設内の小さなスタジオに連れていかれ、はだかにされ、「床に這いなさい」と命令されました。そして色んな格好をとらされます。
お行儀良く前足と後足をそろえて立つ「気をつけ」のポーズ。
ホッペタを床に付けて、お尻を思いっきり高く掲げてニッコリ笑う「ごあいさつ」のポーズ。
ゴロンと横になって目をつぶり、開いたお口から無防備に舌を出している「お昼寝」のポーズ。
可愛らしい写真が撮れたよと誉められて、美也子はご機嫌です。未来のご主人が見てくれる写真ですから、彼女が張り切らないわけがありません。
「明日からは展示会だからね、頑張って」
部屋に戻される時にそう声をかけられて、美也子はいよいよか、と緊張しました。
(4)展示会のプロフィールボード
展示会場にはえりこと一緒にトラックの檻に入れられて移動しました。やはりえりこは、ご両親に引き取ってもらえないのでしょう。展示されると知って、シュンとなっています。会場は小さな体育館でした。中に入ると三十匹くらいの女犬がすでに集まっています。
会場はいくつもの畳二畳ほどのブースに区切られていて、一つのブースに一匹ずつ、女犬が収容されています。お客さんは自由にどのブースにも行き来ができて、女犬に直接触れて選ぶことができるのです。美也子は「三五番」と記されたブースに連れていかれました。えりこちゃんは向かい正面のブースです。
美也子は「しゃがみなさい」と命令され、服を脱がされ、生まれて初めての首輪をされます。首輪から伸びた一メートルちょっとの鎖で、ブースの床の留め具にしっかりと繋げられました。この長さでは立てないので、這うか座るかの格好しかできません。
生まれて初めて、はだかんぼでの拘束をされて、羞恥と緊張からか、お顔といわず手足といわず真っ赤になります。この状態で、ブースに見に来てくださる客さまをお迎えし、質問に答えたり、身体を調べられたりして選んで戴くのです。えりこちゃんのブースが騒がしいので見てみると、彼女は、はだかにされるのを嫌がって、声を上げて抵抗しているようです。
美也子の世話係りのおじさんが、留め具の鍵をポケットにしまいながら、会場を見回っている女性監督官に声をかけます。
「この仔は今日が初日なのだが、メガネははずさせた方がいいかね?」
美也子はかなりの近眼です。飼い主が決まればメガネなど取り上げられることは承知していますが、施設ではそのままにされていました。監督官は美也子を一瞥すると、
「そのままでいいんじゃないですか。メガネをかけていた方が、この仔は愛嬌があるわ」
と、適切な指示を下します。そして素直にはだかにならず、首輪も受けつけようとしないえりこちゃんのブースに向かいます。
しゃがみ込んで身体を縮こませ、入院着を脱がされまいと泣きながら頑張っているえりこちゃんを、世話係りのおじさんが怒りを露わにして、無理に脱がせようとしています。そこに女性監督官が割って入り、小さい声で何かえりこちゃんに言い聞かせを始めました。頭を撫でたり、手を握ったりして彼女を落ち着かせようとしています。
始めのうちは頭を振って言うことを聞こうとしませんでしたが、しばらくすると落ち着きを取り戻しました。監督官はなおも熱心に言い聞かせをしています。やがて、えりこちゃんは小さくうなずくと、親身になって言葉をかけてくれた女性監督官に、甘えるように身体を任せ、服を脱がしてもらい始めました。どうやら説得が効いたようです。
上も下も脱がされて丸はだかにされると、必死に両手で小さい胸を隠します。首輪を嵌められ、美也子と同じように床の留め具に繋がれます。
「それじゃがんばるのよ。あとはやってくるお客さんに愛想良く振舞っていればいいからね。希望者が多い仔は抽選になるから、なるべくたくさんの人の気に入られるようにしなさい」
女性監督官はそう注意すると、忙しそうに行ってしまいました。残されたえりこちゃんは嗚咽を漏らしながら、真っ赤にしたお顔を伏せています。
美也子のブースには、昨日撮った写真も大きく引き伸ばされて貼られています。可愛く撮れているので安心しました。ふと、美也子は留め具のすぐ脇に立っている大きめのボードに気がつきます。
「何が書いてあるのかな?」
身体を移動して確認した美也子は「キャアッ」と声を出して驚きました。ボードには美也子の細かなプロフィールが書かれていたのです。
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本名 田村美也子
両親 父 田村誠二郎(死去) 母 田村文子(死去)
本籍 山崎県豊越市本郷町三ノ六ノ一三ノ三〇六
生年 新暦二四八年四月八日
年齢 二四才
学歴 市立豊越北商業高校卒業
職歴 高校卒業後、INU商事株式会社入社 女犬志願時に退社
賞罰 中学一年、万引きで補導。高校二年、売春と喧嘩で二回補導(全て不立件)
サイズ 身長149センチ 体重48キロ 座高86センチ B79 W56 H92 F24
健康状態 視力右0.05左0.3 右耳に低度の難聴(喧嘩の後遺症)他は良好
運動神経 鈍重(五段階評価) 運動選手の経験なし
学力 総じて低学力。進学した高校は県下最低レベル
喫煙・飲酒習慣 無し
ピアス 痕跡無し
好物 かぼちゃ、納豆、赤飯、たこ焼き、バナナ、他果物
女犬進行度 投薬治療は完了。身体的特徴はまだ無し
性格1 いたって温厚。弱者に優しい。素直、従順、忠実、服従心が高い
性格2 意志薄弱。責任感が弱い。依頼心が強い。友人関係を長く保てない
性体験 初体験は小学六年生の時。体験数五人(売春相手は含まず)
結婚歴、堕胎歴 共に無し
特記事項 女犬志願者であること。志願の理由は失恋
自己紹介
子供の頃、遠い親戚に預けられて育ちました。中学一年生の時に両親が迎えに来てくれるまで、お父さんの顔もお母さんの顔も知りませんでした。なんとなくこの家の子じゃないって解ってて、毎日寂しかったです。中学生の時から不良仲間に入って、盗みや売春など悪いこともしました。
高校時代、不良仲間にリンチされる事件を起こし、退学寸前になりますが、被害者でもあり、担任の先生の嘆願もあって処分保留にしていただきました。以後、信頼できる担任の先生に励まされて悪いことはしなくなりました。卒業後は、小さな会社に就職することもできたのです。会社では真面目に過ごして、普通に恋愛したりしてたのですが、つい最近、彼を他の女の子に盗られちゃいました。それがきっかけで、女犬志願することを決心しました。
頭が悪くて身体もチビで不細工だし、年増だし、みっともないお顔をしてるのも知ってます(涙)。他の女犬さんたちと比べて、秀でた所など何もない私ですが、私は飼い主さまとの運命の出会いを信じています。
子供の頃はお友だちがいない寂しさで、似合いもしない不良の真似事をしていたお馬鹿な私ですが、決して性格のひねくれた悪い仔じゃありません。性格は気弱で大人しく、従順で忠実です。美也子は従順さと忠実さだけは、決してどの女犬さんにも負けません。一度面倒を見ていただければ、御恩は一生忘れません。どうぞ厳しいしつけをして、立派な犬に育ててください。飼い主さまのご家族の末席に加えて戴けるよう、精一杯に犬なりの努力をしますから、どうぞ可愛がってくださいね。
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なんて恥ずかしいメッセージでしょう。両親の名前から、かぼちゃが好きだとか、勉強が出来ないとか、補導されたことまで晒されています。もちろん自己紹介文は自分で書いたものではありません。いつの間にこんなこと調べたのでしょう。美也子は気が遠くなりかけました。
「どうしたの? ねえお姉さん、大丈夫なの?」
向かいのブースから、はだかのえりこが声をかけてくれます。
「ええ、大丈夫です。ちょっと眩暈がしただけよ」
えりこちゃんのはだかを見るのは初めてです。まだ未発達な身体ですが、清潔感があって、本当にきれいな娘さんです。
「なんて張りのある若い肌なんだろう。こんなにきれいな仔なら、きっとすぐに貰い手がつくだろうな」
ぼんやりと彼女を見ながら思いました。ボードに書かれてることも、美也子とは大違いです。
えりこも自分のプロフィールボードに気がつき、顔面蒼白です。幼な顔の美少女犬なので、男の人向きに書かれたのでしょうが、あまりの屈辱に下唇をギュッとかみしめ、また泣き出してしまいました。
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本名 遠藤えりこ
両親 父 遠藤一平 母 遠藤恒子
本籍 島津県塚本郡佐蔵本村二本松下一三七五
生年 新暦二五六年二月一八日
年齢 一六才
学歴 私立オチラエフ学園高等部二年中退(吹奏楽部に在籍。クラリネットを担当)
賞罰1 中学二年時に全国中学生絵画コンクールで銀賞
賞罰2 高校一年時に県大会で吹奏楽部第二位入賞
サイズ 身長154センチ 体重42キロ 座高74センチ B86 W51 H88 F22
運動神経 俊敏(五段階評価) 運動好き 陸上選手(障害物105m)の経験あり
健康状態 良好
学力 高校一年冬季期末学力テスト学年7位
ピアス 両耳に一つずつ
好物 甘い物なら何でも(特にケーキ、菓子類)、焼きイモ、トウモロコシ
愛読書 モロー詩集、キングストーン文学全集
女犬進行度 尻尾の微細な隆起、指の麻痺を確認。女犬変化促進治療は完了
性格1 明るく明朗。甘え上手。楽天家
性格2 我がままで強情っぱり。思ったことをはっきり言って自分の意見を曲げない
性体験
初潮は小学四年生の夏休みでした。初恋は中学一年生の時の同級生。告白もしない本当のプラトニックラブでした。高校一年生の春、同級生のお兄さんと初めてキスとペッティングをしました。その二ヵ月後に友だちの紹介で知り合った大学生と初体験を済ませます。この人はとても上手な人だったので、その後も何回かセックスを繰り返しました。その後、三人の彼と同時にお付きあいしてセックスをしてました。えりこの身体はまだまだ未成熟ですが、セックスは喜んでもらえたみたいで、三人とも会う度に求めてきました。えりこも覚えたてだったし、求められればいつも応じていました。だって、みんな上手だったんだもん!
自己紹介
子供の頃から優しいママに甘やかされて、とても我がままな娘に育っちゃいました。でも、とても明るくて素直な性格です。ママとパパの言うことは全然聞かなかったけど、ご主人さまの言うことは素直に聞いて、早く可愛いワンちゃんになれるようにがんばります。
通訳になるのが夢で、頑張ってずいぶん勉強しました。でも本当はえりこ、勉強なんて大っ嫌いだったんですぅ・・。あ、もう勉強なんてしなくていいんだ。らっきぃ
( ^ ^
)v これからは、可愛いワンちゃんになるための勉強をたくさんしまーす。早く一人前の賢い犬になりたいです。ちゃんとしたしつけや芸をたくさん教えてくださいね。
クラリネットは小学生の頃から習っていました。もう演奏はできないけれど、これからはご主人さまのクラリネットを一生懸命に咥えておしゃぶりしまーす。あ、やだ、お馬鹿なこと言っちゃった(笑)。
えりこはまだ、性に目覚めたばかりの「お年頃の少女犬」なので、オナニーの我慢ができない時があるかもしれません。そういう時は淫乱犬にならないように、ちゃんと叱ってくださいね。えりこはまだまだ子供ですから、性のしつけ以外にも、良い仔になる為のしつけを沢山してください。何も知らない世間知らずのお嬢さま育ちなので、うんと厳しくしてくださいね。
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(5)飼い主候補の面々
開場時間が来て、お客さんたちが入ってきました。美也子のブースにも若いカップルが来てくれます。
「あら、この仔、可愛い顔してるよ」
「これって可愛いっていうのか? 不細工なだけじゃねえかよ。年増だし、もっと若いのにしようぜ」
美也子は男の子の乱暴な批評にちょっと悲しくなりますが、一生懸命笑顔を作って小首を傾け、愛想を振りまきます。そんな仕草に二人は笑顔を返してくれますが、結局カップルは男の子の意見で、向かいのえりこちゃんの方に行ってしまいました。あまり構って貰えませんでしたが、もう誰にも家畜扱いされる身の上を改めて認識させられて、心臓はドキドキです。
次に、小さい子供連れの家族が見に来てくれました。
「あらあら、メガネ犬ね。チンクシャのお顔が可愛いわ。短足で、胸もペッタンコの幼児体型ね。私、こういう仔が好みなの」
美也子と同じくらいの年齢の若いお母さんが、ホッペタを撫でてきます。豊満な身体から、年齢相応の色香を放つお母さんです。
次いではだかの美也子を、頭のてっぺんから爪の先まで撫で擦すり、感触を調べます。美也子は身体の成熟した同年代の美しい女性にはだかを調べられ、激しい屈辱感を感じます。でもとても優しく触ってくれるので、素直に「気持ちいいです」という表情を作って、ジッとしていました。
「いいわね、健康そうな仔だわ。ちょっと太り気味だけど肥満じゃないし。なによりも、素直に身体をいじらせるのは、大人しい性格の証拠よね」
検分を終えたお母さんは、美也子を気に入ったようです。ボードを読んでいたパパも賛同します。
「不良娘だった割には、とても素直そうな眼をしてるね。お、この仔は女犬志願をしたのか」
「まあ、志願犬なの? それはしつけが楽でいいわ」
「ママ。僕、この仔がいい。ね、この仔飼おうよ」
まだ小さい坊やも、嬉しそうに美也子の背中を撫でています。
「坊やは優しそうな犬が好きだものね。でも、もう少し他の仔も見てからにしましょうね」
お母さんがそう言うと、親子は別のブースに行ってしまいました。
えりこちゃんのブースでは、先ほどのカップルがまだ彼女を検分しているようです。
「可愛らしい顔をした仔だけど、あまり言うこと聞きそうにないね」
「ほら、チンチンしてみろよ」
乱暴に頭をポンポン叩きながら男の子が注文を出しますが、
「チンチンなんて・・・出来ないです。ごめんなさい、許して」
胸を両手で隠しながら、まっ赤なお顔をプルプルと振って、悔しそうな泣き声でお許しを乞うています。
「なんだとコイツ、逆らうのか」
出来ないと言うのを「反抗」されたとでも受け取ったのでしょうか。男の子は腹を立て、華奢な肩を乱暴につかまえ、必死で隠している胸を触ろうとしてきます。
「キャア、やめてくださーい」
恐怖にかられたえりこちゃんは、思わずダッシュで逃げ出しました。しかし彼女は首輪の鎖で地面に繋がれているのです。ガクンと鎖に引き戻されます。男の子は鎖を引っ張り、元通りに自分の前にえりこちゃんを座らせました。
「おまえ、俺たちに検分されてる途中で、どこに行こうとしたんだ? え? このメス犬が」
「この仔まだ、自分が鎖で繋がれた犬になったこと、よく理解できてないんだね。まだ自分は人間だと思ってるのよ」
「イヤ! イヤ! ごめんなさい、許して。乱暴にしないでください。アン、アン、アアーン」
よほど恐いのでしょう、えりこちゃんは泣きながら床にオデコを付けて、土下座の格好でお許しを乞います。見かねた女の子が、彼をたしなめ始めました。
「もうやめなよ。この仔にチンチンは、まだ無理だよ」
「ちぇっ。早く可愛いワンちゃんになれるようにがんばりますって書いてあるじゃねえか。ちょっとは頑張るふりでもしてみせろや」
ポカリと軽く、えりこちゃんの後頭部をゲンコで叩きます。とたんにえりこちゃんの泣き声が一オクターブ上がります。
「やめなさいってば。動物をいじめるなんて最低だよ。この仔はお嬢さん育ちって書いてあるじゃない。こういう仔は時間をかけて、人間のプライドを捨てさせる調教をしてあげなきゃ、ダメなんだよ」
「もういいや、ほか行こう。もっと言うこと聞くヤツ探そうぜ」
「さっきのおばさん犬、ダメなの? 大人しそうだし、私、結構気に入ってるんだけどな」
女の子が美也子を指さして言います。でも男の子は首を振ります。
「もうちょい見た目カッコいいのにしようぜ。あっち行ってみよう」
男の子はさんざん勝手なことを言って、行ってしまいます。
後に残されたえりこちゃんは、いつまでたっても泣き止みませんでした。
しばらくすると今度は、やかましげな若い女性の三人組がやってきました。
「あらあ、この仔、二四歳だって。ずいぶん年増だね」
「わ、志願犬なんだ。へえ、恋人を盗られたのが原因? アハハ、文字通り本物の“負け犬”になったんだね」
美也子は彼女らに囲まれ、遠慮のない批評の嵐に揉まれます。屈辱的な事も言われ、カッと赤くなりますが、とにかくお行儀をよくしようと務めました。一人がホッペタを両の手のひらに挟んで、お顔を覗き込んできます。真正面に向かされたお顔に、三人の視線が容赦なく降り注ぎます。
「なになに? みっともないお顔をしてるって書いてあるわ。あ、本当だ、前歯がちょっと出てて、お鼻がペチャンコだ」
「眉毛も太いままだし、髪の毛もボサボサ、肌の細かい沁みも目立つね。お化粧したことなかったのかしら?」
「メガネがみっともなさを強調してて、チャームポイントになってるのがまた恥ずかしいよね」
「でも愛嬌一杯の笑顔だね。ホッペタとオデコの面積が広いからちょっと童顔なんだ。確かに年増だけど、よく見ると可愛い顔してるよ」
「お肌の艶はまあいいかな。年齢相応に脂がのって、テカリがあるってトコね。それに、こんなにされても笑顔を崩さないのは好感が持てるわ」
お顔の検分が済むと、次はボディです。
「この仔、アンヨが短すぎない? 四つ足歩きは上手そうだけど」
「短い上に、太腿もちょっと太いわ。飼うならこれ以上、太らせないように気をつけなくちゃ」
「胸が見事にペッチャンコねえ。二四歳なら充分に大人でしょ。もう膨らむ見込みはなさそうね」
「そのかわり、お尻が大きいわよ。ズシンって感じのお尻だわ。仔犬十匹くらい簡単に生めそう(笑)」
「そうだね。身体の中で成熟してるのはお尻だけって感じだね。私だったら恥ずかしくて生きていけない(笑) 本当にバランスの悪い体型だわ。でもさ、ここまでみっともない体型だと、なんか愛嬌があって可愛いと思わない?」
「そうだね、愛嬌があるからイイのよ、この仔は。ずっとニコニコしてるしね。女犬志願するだけあって、愛玩犬向きの性格なのよ」
体型には大きなコンプレックスを持っている美也子なので、ジロジロと遠慮の無い六つもの視線に晒され、言いたい放題にされるのは本当に恥ずかしかったのですが、評判がそれほど悪くないのでホッとしました。
「ちょっとメガネ、はずしてみようか。ごめんね、ちょっとだけじっとしてるのよ。・・・あら、この方が可愛いじゃない」
一人の娘がメガネをはずし、美也子の手が届かない所に置きます。美也子はちょっとだけ勇気を出して、メガネを取ってくれた子のスカートに、甘えるようにホッペタを擦りつけて、媚びを売ってみます。
「アラアラ、甘えて来るわ。ユリエ、この仔いいんじゃない? 飼いやすそうだよ」
喜んでもらえたようです。思い切ってやってみて良かったと思いました。この娘たちは、どうやらユリエと呼ばれた娘が飼うペットを、皆で選びに来たようですね。
ボードを読んでいた娘が言います。
「わ、やだ。不良だったんだよ、この仔」
「そんなの関係ないじゃん。悪いことしたら、ごはん抜きにして顔を引っぱたけば、言うこと聞くようになるよ」
「不良って昔のことでしょ。それに女犬志願するくらいだもの、ひねくれた仔じゃないよ、きっと。こういう仔はしつけに苦労しなくて済むんじゃない? とっても素直そうな目をしてるし」
「どうなの? 今のお前はいい仔なのかな?」
美也子は前足を地面に付けて姿勢を正し、お顔を彼女たちの方に向け、ニッコリ愛想笑いを振りまきながらお鼻を「クンクン」鳴らしました。それは「私はいい仔ですよ。何でも言うこと聞く、素直な仔です」との無言のアピールです。
見よう見真似で犬の真似をしたので、自信は無かったのですが、彼女たちには好評だったようです。
「あらあ、ホッペタ真っ赤にしながら媚びてるわ。まだ何もしつけられてないのに、えらいね、お前は」
と、頭を撫でてもらえました。
ユリエはボードに目をやり、しゃがみ込んで美也子と目を合わせます。
「美也子って名前か。私より三つも年上ね」
ちょっと思案気にしてから、
「美也子は年下の女の子に飼われても、素直にしつけが受けられる良い仔かな?」
と、丁寧に頭を撫でながら質問します。
ユリエはすらりとスタイルが良く、センスのいい高価な服や靴、アクセサリーを身に付けたお嬢さまタイプの女性です。こんなきれいなお嬢さんの側にいられたら嬉しいな。そう思った美也子は、どう答えればユリエは喜んでくれるだろう、と考えながらお返事をします。
「ハイ、お嬢さま。もちろんです。お慕いさせてくださいな」
「あらあら、お嬢さまだって。口の上手い仔ね」
頭を撫でてもらい、その手に甘えるようにしながら美也子は口上を続けました。
「お嬢さまのような、きれいな方に飼われたいと願っていました。そこに書いてある通り、美也子は他の女性に恋人を盗られ、人として生きていくのをあきらめた“負け犬”のおんなです。犬のしつけは素直にお受けします」
「覚悟はしっかりできているようね」
「美也子はまだ家畜の生活は何も知らないので、お嬢さまに厳しくしつけていただいて、お行儀の良い犬になりたいです。一生の間、可愛がってください。よろしくお願いします」
お座りしながらペコリと頭を下げて、上手に挨拶できました。
「よしよし、良い仔ね。若い仔よりも年増の方が素直だから扱いやすいわ。それに年上でもずいぶん身体が小さいから気にならないし。私、気に入っちゃった」
「そうだね。この仔だったらいいよ。絶対失敗しないと思うよ」
「それじゃ美也子ちゃん、候補の中に入れといてあげるからね。抽選当たるといいな。またね」
ユリエはお友だち二人を従え、さっそうと引き上げていきました。
えりこちゃんは相変わらず、両手で胸をかくし、足をピッタリと閉じ、ペッタンとお尻を床に付けて泣いています。その格好で、お尻をチラチラと見やって、しきりに気にしています。胸や性器は隠せても、お尻が丸見えなのは隠せないからです。
そんな彼女に近づくお客さんはほとんどいません。やって来るのは、ちょっとからかってやろうという冷やかしの人ばかりです。
おじさんの二人連れがやってきました。ボードを読むと、さっそく彼女をいじめ始めます。
「可愛いお顔をして、随分お盛んな女子高校生だったんだねえ」
「何々? 彼氏が三人もいたのかい。みんな上手だったんだ。若さだねえ。よく身体がもったねえ」
「逆だろう。三人いたから好色な身体がもっていたんじゃないのかい(笑) 覚えたてで、一番やりたい盛りの年頃なんだから、お盛んになるのは仕方ないさ。しかしこんな仔を飼ったら、オナニーの躾が大変そうだ」
「違います、そこに書いてあるのは嘘です。おつきあいしてたのは本当だけど、そんなにセックスばっかりしてません」
真っ赤になって抗弁する彼女ですが、彼らは元々からかいに来ただけですから、もちろん無視されます。
「今は毎日オナニーしてるのかね?」
「もう性器は一人前の女犬のように、濡れるようになったのかね? 質問に答えなさい」
下卑た質問に、えりこちゃんは恐怖の表情で、後ずさりします。
二人は顔を見合わせてうなずくと、二人がかりでえりこちゃんの足を掴みました。悲鳴を上げる彼女にお構いなしに、強引に足を広げさせ、股間を覗きみます。必死になって大声を上げながら抵抗をするえりこちゃんです。あまりの騒ぎに監督官が集まってきました。
「もしもし、あまり無茶なことはしないでやってくださいよ」
「いや、失礼。なにね、あまり素直な仔じゃないので、ちょっとお灸をすえてやろうと思ってね」
「困りますな。お仕置きは飼い主になってからしてやってください。この仔はまだ誰が持ち主になるか解らない、大切な預かりものの動物です。すぐに離しなさい」
彼らは監督官たちに断固とした口調で注意され、渋々とえりこちゃんを離し、バツの悪そうな顔をして行ってしまいました。彼女は性器を見られて、火が付いたように床に突っ伏して泣いています。
「股間を覗かれたくらいで泣くんじゃありません」
先ほどの女性監督官が声をかけてくれました。えりこちゃんは彼女のスカートにすがって泣きつづけます。どうやら今日はもう限界のようです。
「そんなに泣いてばかりでは、お客さまにも他の仔たちにも迷惑だ。今日はもう施設に帰りなさい」
監督官たちはそう言って彼女を鎖から解き、入院着を着せ、連れて行ってしまいました。
えりこちゃんが連れて行かれてしばらくすると、「おやつタイム」の時間がやってきました。会場にいるお客さんたちに、女犬用のおやつ袋が配られ、気に入った女犬に食べさせることが出来るのです。美也子のブースにも、初老の夫婦や高校生のグループ、新婚のカップルさんが来て、手からおやつを食べさせてくれました。みなさん「可愛いわね」「この仔にしようか」と言ってくれて、評判は悪くありません。
お孫さんを連れたおじいちゃんが来ました。子供がオズオズと差し出してくるお菓子を、お口だけで上手に受け取り、モグモグと美味しそうに食べると、子供は満面の笑顔になってくれます。
「ねえねえ、ぼくさ、ちゃんとお菓子、あげられたよ」
「良かったな坊主、美味しそうに食べてもらえて」
「おじいちゃん、動物って可愛いねえ」
嬉しそうに言いながら、手を振って帰っていきます。美也子は、喜んでもらえて幸せを感じました。犬になった幸せを感じたような気がしました
次に来たのは背の低い太った、不潔そうな男です。安物のズボンとシャツを身に着け、度の強いメガネをかけた不健康そうな若者です。
美也子は先ほどの女の子のグループにメガネを外されているので、お客さまの容姿はボンヤリとしか解りません。しかしこのお客さんが、異様な匂いを醸してるのにはすぐに気がつきました。それはリンゴが腐ったような、猛烈にイヤな匂いです。お風呂に何日も入っていないのでしょう。美也子は思わず後ずさりしました。
その男は、美也子に嫌がられた事など気にもせず、お菓子を床に放ってきます。美也子が動かないでいると、「ソラ、ソラ」、などと関心を引かせるように声をかけながら、二つ、三つと床にお菓子をばら撒きます。
美也子は気持ち悪かったのですが、新米女犬が人間のくれる物を選ぶのは、生意気で良くない事なんじゃないかと健気に思い直し、床の食べ物を食べるなんて初めてでしたが、思い切って口をつけました。そしたら男は調子にのって、お菓子を不潔な手から食べさせようとしてきます。本当にイヤだったのですが、これくらいの事に耐えられなくては、可愛い女犬にはなれないと、目を閉じながら食べました。近づいただけで軽い吐き気を催しました。
男は汚い手で美也子を撫でてきます。
「このお菓子、不味いらしくてここの犬はみんな食べないけど、お前はよっぽどイヤしいみたいだな。みんな食べないお菓子を美味しそうに食べるんだものな。ホラ、もっと食うか?」
などといいます。こんな臭い男からもらう食べ物なんて、そりゃ誰も食べないでしょう。それに床に放られても、ここにいるのはまだ、犬食いの経験もない仔たちばかりなのですから、嫌がられて当たり前です。よほど無神経な男のようです。その後、いくつかお菓子を食べさせると、男はボードを熱心に読んで何かメモし、行ってしまいました。
そのあと、今度はとてもカッコ良い男性がやって来ました。年齢は美也子よりちょっと若いでしょうか。長身で端正なマスクにパリッとした、センスの良い背広を着こなしています。近視の目でも見栄えの良さはよく解ります。
彼は優しく髪を撫でてくれ、お菓子を美也子が食べやすいように、指でつまんでお口の中に入れてくれます。その優しさに、美也子はちょっとウットリしてしまいました。美也子に興味を持ったらしい彼はボードを熱心に読み始めます。
「君はとても可愛い体型だね。おや、志願犬なのか。フーン、いろいろと苦労してるようだね」
そういって、お顔をうんと近づけてくれました。彼の美しいお顔を間近に見て、美也子はドキリとします。思わず、舌を出してペロリと舐めてしまいました。
「あ、いけない。嫌われたかもしれない」
こんなみっともないお顔の女犬に舐められたら怒り出すんじゃないかと、自分の迂闊さを後悔しました。ところが彼は、
「アハハ、舐めてくれたのかい? 君はとても悪戯っ仔だね」
そう言って、抱きしめてくれたのです。もう美也子はドキドキです。こんなカッコ良い年下の男の人に抱きしめられるなんて、生まれて初めてです。彼はとても逞しい身体をしているのが解ります。ふと、いつかの夜に見た、婦人犬ショコラを思い出しました。あの仔のように、こんなカッコ良い人に飼われて、戯れでベッドに上げられ、逞しい身体で可愛がられたら、どんなに幸せだろうと思いました。
彼も美也子を気に入ってくれたようです。ペッタンコのおっぱいを愛撫したり、お尻を撫でたりして、美也子を喜ばせてくれました。別れ際に、唇に軽くキスまでしてくれたのです。美也子はしばらくボーっとなってしまいました。
(6)未来に向けての旅立ち
長い一日が終わり、トラックに載せられて施設に戻ります。えりこはお部屋でボンヤリとしていました。
「えりこさん、今日は大変だったね・・」
「お姉さん、わたし、わたし・・」
泣いて胸にすがり付いてきます。よほど辛かったのでしょう。しっかりと抱きついて離れようとしません。美也子はしばらく抱きしめていてやりました。
翌日も展示会に行くものとばかり思っていましたが、二人は連れて行ってもらえませんでした。何故なのか理由を聞いても、
「そういう人間の都合を、犬に教える必要はありません」
と言われるばかりです。えりこは保健所に連れて行かれるのじゃないかと、すっかり怯えています。そんな心配はないのよと、いくら慰めてもダメです。
そこで美也子は、検診にきた若いお医者さまにご奉仕のトレーニングをしたいと申し入れ、内緒でトレーニングルームに連れて行ってもらいました。そしてフェラチオのご奉仕をして、その代わりに二人の処遇についての情報を聞かせてもらいました。
美也子は初日の展示会で飼い主が決まったそうです。希望者が複数いて抽選をしたので、誰が飼い主に決まったかは解りませんでした。
えりこは展示された日に、入れ違いで親戚の方から飼い主の申し入れがあったそうです。それが誰なのかは解りませんが、おそらく彼女が言っていた、結婚した伯母さまでしょう。二人とも、あと一週間検査を受けた後、それぞれの飼い主の元へ移送されるそうです。
それをえりこちゃんに教えてあげると、彼女は大喜びです。施設に入ってから初めて彼女は、心底嬉しそうな笑顔を見せました。
「間違いないわ、伯母さまよ。ああ良かった。私、これで人間の生活に戻れるわ」
そう言って無邪気に喜んでいるえりこちゃんです。
おそらく彼女の期待は裏切られるでしょう。これだけ女犬になる事への拒否感が強い仔ですから、どんなしつけをされるかで、彼女の犬としての幸せは大きく違ってくるでしょう。厳しくしつけられて犬の自覚が持てれば、誰からも可愛がられる仔になれるでしょうが、甘やかされて犬の自覚が持てなかったら、とても惨めな一生を送ることになります。
私はどうなるのかな? 美也子は思いました。誰が抽選を当ててくれたのかな? あの、きれいなお嬢さまのユリエさんだったらいいな。素敵なファッションで颯爽と歩く彼女に引き綱を引かれて、街をはだかの四つ足で散歩するのよ。スラリとしたお洒落で美しいお嬢さまの足元でチョコマカしている、はだかのみっともない体型の私・・・美しいお嬢さまの引き立て役としてうんと愛嬌を振りまいて、たくさん誉めていただこう。
あのカッコいい男の人だったらどうしよう。彼は独身かしら? もしそうなら毎日でもご奉仕して尽くそう。彼の命令なら、たとえ火の中にも本当に飛び込んじゃおう。そうしたら、きっと彼は私を毎晩可愛がってくれるわ。私、幸せ過ぎて死んじゃうかもしれない。
坊やのいるご家族も良かったわ。昼間はあの優しそうな奥さまにしつけをされて、夕方は坊ちゃんの遊び相手になって、夜は帰宅されたご主人を玄関にお出迎えして・・・そしてたまに、ご夫婦の夜の営みに刺激を与えるおもちゃ代わりにされて・・・
楽しい想像は尽きません。
やがて、二人が出荷される日がやって来ました。美也子とえりこちゃんは別々のトラックの檻に載せられて、それぞれの未来に向けて出発していったのです。