女犬のいる国

 

「第五章 みゆきと沙織の場合」」

 

ブルーアリス

 <前編> 

 

(1)突然の破局

 

 

はじめまして。わたくしは児島みゆきと申します。犬の名前は「ショコラ」。娘の沙織と二匹、母娘で飼ってくださっている柳沢さまに付けていただいた名前です。年齢は三三歳。もう充分に年増の「おばさん犬」ではございますが、まだ家畜に身を落していくらも経っていない、新参者の女犬でございます。

 

子供の頃は、事業を営んでいた裕福な両親に箱入りで育てられ、高等学校を卒業するとすぐに父の取引先関係の方と結婚し、幸せな生活を営んでおりました。一粒種の愛娘、沙織にも恵まれ、父が郊外に建ててくれた庭付きの小さな家で、三人仲睦まじく暮らしておりました。

 

わたくしの災難の前兆は、沙織が女犬になったことでした。中学校の身体検査で女犬と診断されてしまったのです。何でも、検査で犬笛が聞こえることが解ったそうで、そのまま施設行きとなったのです。まだ一三歳で不憫でしたが、それでも、犬となって戻ってきた沙織に、「コロン」と新しい名前を付け、夫と二人でいつまでも可愛がって、これまでと同じように三人で仲良く暮らしていこうと、決意していたのです。

 

破局は突然やってまいりました。夫が飲酒運転で人身事故を起したのです。接待で無理にお酒を飲み、帰り道に横断歩道で若者を即死させました。仕事は懲戒解雇、もちろん退職金など支払われません。夫自身も大怪我を負って、医療刑務所に入れられます。裁判の判決は懲役十二年でした。ご遺族の方からは莫大な慰謝料を請求されましたが、悪質な飲酒運転事故と判断されて保険金は支払われません。

 

家を売り、残っていた貯金と合わせても慰謝料には足りず、ご遺族からは高い利の付くお金を借りて、慰謝料を払うように迫られました。世間知らずとお笑いください。強い調子で迫ってこられるご遺族の弁護士にわたくしは抗しきれず、言われるまま書類に判を突いたのです。

 

家を失い借金を背負い、夫が犯罪者となった今、親戚からもお友だちからも見放されました。母はすでに父を亡くし、身体を悪くして床に臥せり、遠い親戚に身を寄せております。病身の母を頼って肩身を狭くさせる事など到底できません。

 

子供の頃は父、結婚してからは夫と、わたくしは常に誰かの庇護下で、暖かなぬるま湯に浸かりながら過ごして参りました。そんな世間知らずのわたくしでございます。これまでただの一度も、生活のために汗を流すことなく生きてきて、突然一人で毎日の糧を得て生活していけと言われても、そんなこと到底できそうにございません。わたくしは厳しい世間さまの風に揉まれ、途方にくれてしまいました。

 

貸金業者からのきつい催促も連日です。わたくしは死ぬことを考えました。でも、一人で逝っては残された女犬の娘があまりにも可愛そうです。いっそ二人で無理心中をと思い詰めましたが、死にきることは出来ませんでした。人として、か弱すぎるわたくしは、生きていく力も無ければ、死ぬことも出来ないのです。

 

もう何も考えられない放心状態の日々が続きます。そんなある日、貸金業者の方から柳沢さまを紹介していただいたのです。柳沢さまから、わたくしが女犬志願をすれば、娘共々引き取っても良いというご提案を受けました。それは強く生きていく覚悟のない、意気地なしのわたくしには、とても相応しいお話だと思えました。

 

 

 

(2)女犬志願の決心

 

 

わたくしたち母娘を柳沢さまに検分していただくため、沙織にセーラー服を着せておめかしをさせ、貸金業者の車で日の暮れた街を走り、ホテルの一室に向かいました。業者の方に初めて柳沢さまと引き合わされて、ああ、とても逞しい体格をされた方だなと、頼もしい印象を受けました。身長は一八五センチを軽く超え、百六十に満たないわたくしは、大きく見上げながらご挨拶をさし上げたものです。

 

わたくしよりいくつか年長でいらっしゃるはずですが、日焼けして精悍な容貌はとても若々しく見えます。理知的でハンサムなお顔から澄んだ眼で見つめられると、少女のように胸がドキドキしてきて恥ずかしくなり、俯いてしまいました。柳沢さまはそんなわたくしに爽やかな笑顔を見せてくださるのです。とても包容力のあるお方です。

 

逞しく頼りがいがあり、優しく包容力のある柳沢さま。お父さまはとてもお偉いお役人で、柳沢さまご自身も役所関係のお仕事をする会社を経営されているそうです。今は刑務所にいる夫も誠実な人柄でしたが、人間的なスケールは柳沢さまに遠く及びません。夫には無い大きな力を、わたくしは柳沢さまに感じたのです。

 

わたくしは「このお方になら」と、決意を固めました。

 

「みゆきさんですね? やあ、写真では拝見していましたが、とても若々しくておきれいな方ですね」

 

初めての挨拶で、柳沢さまはそんなお世辞をおっしゃってくださいました。

 

挨拶が終わると業者の方は、後でまた来ると言って出て行き、わたくしたちは三人きりになりました。柳沢さまはわたくしの足元にピッタリとくっついて「お座り」をしている娘の沙織に興味を示されます。沙織には柳沢さまのお好みで、中学生時代の真っ白な夏服セーラー服を上下に着せております。

 

純白のスカーフが胸元を飾り、素直に伸びた長い髪を左右に振り分け、三つ編みのお下げにして赤いリボンで留めた、少し面長の幼な顔。子供用のリップスティックで唇を艶々にし、頬紅でほんの少しおめかしをさせた沙織は、思わず誰もが頭を撫でたくなる、初々しい可憐な少女犬、といった風情です。恥ずかしそうにわたくしのスカートの影から、これからわたくしたち母娘のご主人さまになっていただく柳沢さまを覗き見しております。

 

「これが沙織ちゃんかな? まだ一四歳だったね。さ、こっちへお

 

手招きされて、沙織はわたくしの足元から柳沢さまのほうへ這い進みます。小柄な沙織は、大きな太い腕で抱っこしてもらい、ホッペタにキスをされました。見ると、嬉しそうに笑っております。柳沢さまは、沙織がまだ人間だった頃に夢中だった少年タレントに少々面影が似ています。そのせいかどうか、沙織はすぐに柳沢さまになついたようです。わたくしはホッといたしました。

 

しばらくソファや床でボール投げや棒拾いをして遊んでもらい、沙織はキャッキャと楽しそうに声を上げております。ああ、何日ぶりに聞く沙織の笑い声でしょう。柳沢さまはとても優しく沙織を扱ってくださっています。

 

「どうやら沙織ちゃんとは仲良くなれそうだね。おじさんのこと、好きかな?」

 

お顔をピッタリと寄せられて訊ねられた沙織は、はにかみながら目を伏せて、恥ずかしそうに頷き、「ハイ、おじさま」と小さく返事をしました。

 

「よろしい。では次は奥さんの番だね」

 

柳沢さまは隣室のベッドルームを示されました。沙織はテーブルの足に繋がれ、「お座り」を命じられます。一人にされるのが不安なのか、眼をしばたかせていますが、大人しく従います。

 

「よしよし、素直ないい仔だね。あとでご褒美をあげるから、良い仔にしていなさい」

 

柳沢さまはそうおっしゃり頭を撫でつけると、わたくしの手を取り、隣りのベッドルームへ入ります。

 

 

 

(3)初めての検分

 

 

わたくしは服を脱がされてベッドに横にされ、身体の検分をお受けしました。胸、お腹、手足、裏に返してお尻と、まんべんなく身体中を撫で擦られ、肉の張りや弛みを調べられるのです。

 

この検分の仕方から察すると、すでに柳沢さまがわたくしを家畜として扱われているのが解ります。でもそれは、すでに飼い犬になって可愛がっていただく事を、心に決めていたわたくしには、かえって安心できる扱いでした。

 

経験豊富そうな柳沢さまは、さすがに女性の扱い方はお上手です。検査をされているうちに、すっかり気持ち良くなってしまいました。わたくしは胸の大きさと形には、密かに自信を持っております。品良く上をツンと向いている張りのある大きなお乳は、決して若い娘にも負けないと思います。

 

柳沢さまにも重点的にお乳の大きさや形、柔らかさを調べていただいたように思いました。「気に入って頂けたかな?」と、わたくしは少し自惚れてしまいます。

 

そっと膣腔にも指を入れられて、刺激されます。わたくしはこの時初めて、柳沢さまに甘えの声を上げてしまいました。おそらく沙織にも聞こえたことでしょう。母の媚びた甘え声を聞いて、あの仔は何を思ったことでしょうか。

 

柳沢さまは、甘え声を上げるわたくしの手を、空いている手で握って下さいました。思わずわたくしは頼りがいのある大きな手のひらをギュッと握り締めました。女遊びの経験も充分に積んでいらっしゃるのでしょう。相当のテクニシャンでいらっしゃるようです。夫とは全く違う、女を扱い慣れた指のもたらすリズムに合わせて、わたくしは幾度も声を上げさせられます。

 

「奥さんは、ご主人以外の方との男性経験は?」

 

見栄を張って嘘をついても、聡明な柳沢さまにはすぐにばれてしまうような気がして、わたくしは正直に告げました。

 

「高校生の時にお二人の方との経験がございます。あとは主人だけです・・」

 

検分が終了したようです。指が抜かれましたが、わたくしはしばらく股を閉じずに、ボンヤリとしていました。股を閉じなさい、と促がされてやっと我にかえりました。実はわたくしはこの後、「きっと一度、抱かれるのね」と、勝手な期待をして、股を開いたままにしていたのです。わたくしはその浅ましい自分の姿に気付き、真っ赤になりながらお股を閉じます。

 

「お乳を気に入っていただけたのでは、なかったのかしら?」

 

わたくしは「おあずけ」をされた犬のような気分で、言いようのない未練に包まれました。考えてみれば、柳沢さまくらいのお方になれば、多数の女性とのお付きあいもあるでしょう。わたくしの胸程度の魅力では、ご不満なのでしょうか?

 

毎日を心細く過ごしていたわたくしは、逞しくて頼りがいのある柳沢さまを前にして、心の底から、

 

「どうして抱いてくださらないの? わたくしの身体がお気に召さなかったのですか? わたくしのおっぱいでは失格なのですか? 柳沢さまの大きな広い胸で、思い切り甘えたかったのに」

 

と、おすがりしたかったのですが、今日お会いしたばかりの方に、そんな積極的に振舞える甲斐性がわたくしにあれば、最初からこんな身の上にはなりません。柳沢さまにその気は全くないようで、わたくしの未練を断ち切るように、服を着るよう命令されます。

 

どうしようもない悲しみが心を覆ってきます。わたくしはお会いしたばかりの新しいご主人さまの魅力に、すっかり心を奪われてしまったことを自覚させられました。こんなことは初恋をした娘時代以来のことです。

 

もし、わたくしを気に入って頂けなかったのなら、今回のお話はお流れでしょう。そうなったらわたくしは沙織と二人、また途方にくれる毎日です。でもそのことよりも、これほど頼りがいのある魅力的な紳士に気に入って頂けず、もう二度とお会いすることが適わなくなることの方が、わたくしには辛かったのです。

 

柳沢さまが検分の感想を聞かせてくださいました。わたくしは一生を左右する、大事な試験の結果発表を聞くような気で、ジッとお言葉に耳を傾けます。

 

「奥さんは実に美しい。とてもあんなに大きな娘さんがいらっしゃるとは思えないスタイルの良さです。少しの崩れもありませんね。大きな胸とお尻も魅力です。特に胸はたいへん魅力的でいらっしゃる。とても気に入りましたよ。その他の部分の足や腹のむっちりとした脂の乗り具合も、丁度良い具合で好みです。肌の艶も肌理の細やかさも二十代の娘と比べて少しも遜色がありません。それに目鼻立ちもこじんまりと整った美人で、年齢相応の色香が匂うように香ってくるようだ。それでいて、少しウブな所もあって、とても甘えんぼうさんですね。とても好感を持ちましたよ」

 

どうやら及第点を戴いたようです。少し誉めすぎなのは、わたくしの年齢をおもんばかってくださったご柳沢さまの優しさだと解釈させていただきました。

 

「でも、それならどうして・・」

 

まだ抱いていただけなかった未練を引きずっていたわたくしの、曇りがちな表情に気が付いたのか、柳沢さまはピッタリと身体を密着させてまいりました。じっと見詰められ、わたくしの心臓はもう早鐘のようです。

 

「きっとすばらしく美しい熟女犬になることでしょう。僕はずっと、あなたがた母娘の面倒を見させてもらいますよ。ああ、今から楽しみだ。よろしいですね?」

 

わたくしはすでに決心しておりましたので、すぐに「承諾」の意を告げました。改めて確認を迫られ、まるで理想の男性にプロポーズを受けたような錯覚におちいってしまいました。わたくしは柳沢さまの確認のお言葉を、一生忘れないでしょう。この時からわたくしは柳沢さまをご主人さまとお呼びする決心をいたしました。

 

家畜となって飼われる決意を告げたわたくしに、ご主人さまは優しくキスをしてくださいます。広い胸に抱きしめてもいただきました。この次にキスをしていただく時、わたくしは家畜の身に落ちていることでしょう。

 

人としてキスをしていただくのはこれが最初で最後という思いが、対応を積極的にさせます。舌と舌をからめ、唾液を交換し、互いの唇をしゃぶりあい、これほど濃厚なキスを体験するのは初めてです。キスを終えてそのことを告げると、

 

「結婚をしていて、その歳で初めて? ハハハ、本当に可愛らしいウブな奥さんだね。これからは私がうんと可愛がってあげよう。安心して私に仕えなさい」

 

と、優しい愛撫をしてくださりながら言ってくださいました。

 

やっとわたくしは頼りになる庇護者を再び得ることができたのです。娘との心中をあきらめ、生きることも死ぬことも出来ないと思い詰めていたわたくしは、神に感謝をいたしました。家畜に身を落すことにはなりましたが、その代わりに心のやすらぎを得ることができるでしょう。

 

こうしてわたくしは、柳沢さまのご希望通りに女犬志願をし、娘ともども引き取っていただく事になったのです。この上は命の続く限り、ご主人さまに尽くして生きる覚悟でございます。

 

 

 

(4)美少女犬、沙織の初夜

 

 

身だしなみを整えて元のお部屋へ戻ると、沙織はテーブルに繋がれたまま、ゴロンと横になっています。ご主人さまに「お座り」を命じられていたのに・・。

 

「まあ、沙織。お行儀の悪い」

 

沙織は「しまった」という顔をして蒼白です。お仕置きは免れません。ご主人さまが怒り出す前にと思い、慌てて叱ろうとしました。ところが案に相違してご主人さまは、

 

「まだ子供なんだ。構わないから」と、甘やかします。

 

沙織は子供とはいえ、女犬になってもうすぐ一年です。人間の命令を聞けなかったら「しつけ」をされるのは良く理解しています。それが思わぬご主人さまの一言で救われたのですから、よほど嬉しかったのでしょう。テーブルに結んだ紐を解いてくださるご主人さまの太い腕にじゃれついて、喜び一杯の笑顔をこぼしているのです。

 

わが娘ながら、本当に可愛らしく育ちました。紐をほどき、自由になった沙織をご主人さまは抱っこして、顔と顔を近づけます。

 

「さあ、それじゃ沙織ちゃん。先ほど約束したご褒美をあげようね」

 

「おじさま、どんなご褒美を沙織にくださるの?」

 

「これから沙織ちゃんを大人のワンちゃんにしてあげよう。あちらのベッドルームで、沙織ちゃんをうんと可愛がってあげるからね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

わたくしは、ご主人さまの言葉に凍りつきました。聞き違いであって欲しいと願いました。しかしご主人さまは沙織を抱っこしたまま、わたくしに「ここで待っているように」、と言い付けて、スタスタとベッドルームへ消えてしまいます。

 

沙織がご主人さまの「夜の愛玩犬」にされるのは、もちろん覚悟しておりました。しかしそれは、沙織がもっと成長してからの事と思っていたのです。そして普段はあくまでわたくしを中心に可愛がっていただき、たまに若い沙織を交えて、戯れに母娘同時に可愛がっていただければ・・。そんな風なことを想像しておりました。なのに・・・なのに・・・。

 

これでは、わたくしの方が付け足しではありませんか!

 

中の様子はどうなっているのでしょう。ベッドルームに鍵などかかっておりませんが、ノブを回す勇気などございません。ドアに耳を当てて、中の様子を伺うのが精一杯です。恥も外聞もなく必死に耳を当てている壁が、わたくしの流す涙で濡れてきます。涙は次から次へと溢れ出て止まりません。

 

どんどん濡れを増していく壁を見詰めながら、わたくしは認めざるを得ませんでした。そう、これは娘の沙織に対する嫉妬の涙なのです。勝手に可愛がっていただけると勘違いをして、実はご主人さまの心は沙織にあった・・。その惨めな仕打ちに、涙が止まらなくなりました。

 

わたくしよりも先に、あの逞しいご主人さまに可愛がってもらえる愛らしい沙織・・。ああ、どうぞお笑いください。ムチで打ってバツを与えてください。わたくしは愛娘の初床に、娘の身を案じるよりも先に、嫉妬の炎で眩暈を起していたのです。

 

ベッドルームからは、ご主人さまの優しげな声が聞こえてまいります。沙織の声は小さすぎて、途切れとぎれにしか聞こえません。

 

「さ、いいね。可愛くしているんだよ。ん? なになに?」

 

「・・・・るなら・・・・ねっ?・・・・・・です」

 

「よしよし、初めてなのだね。安心しなさい。なるべく痛みの無いようにしてあげるから」

 

沙織はご主人さまにこうされることを、あらかじめ予想していたのでしょうか? 素直に言うことを聞いているようです。

 

「沙織ちゃんはとても可愛いらしいお顔をしていますね。セーラー服にお下げの髪がとても良く似合っているよ。上げた髪から覗く、おっきなオデコが可愛いな。きっと中学校に通っていた頃は、男の子に人気があったんだろうね」

 

「・・つめ・・可愛・・・・な・・い・・・・」

 

誉められた沙織が恥ずかしがっているのがわかります。ベッドに寝かされて、セーラー服の上から身体をゆっくり愛撫される衣ずれの音が聞こえてきました。

 

「学校に好きな男の子はいたのかな? キスくらいは済ませていますか?」

 

「・・・・て、・・・・るの。おじさ・・・は、・・・似て・・なん・・しい・・です」

 

ボーイフレンドはいなかったと思いますが、好きな男の子はいたでしょう。沙織は何と答えたのでしょうか。ご主人さまは急に嬉しそうになりました。

 

「そう。それは光栄だね。私も沙織ちゃんのような可愛いお顔をした仔犬は大好きだ。頬紅のお化粧がとても可愛いよ。おめかしはお母さんにしていただいたの?」

 

「・・・です。・・あっ・・・・にき・・・があって・・・」

 

「アハハ、にきびがたくさん出ているんだね。お年頃だもの、仕方がないよ。おや、腫れているのもあるようだ。これなんか少し痛いだろう」

 

「!」

 

どうやら添い寝をされて、間近からお顔の検分をされているのでしょう。わたくしにはそんなこと、してくださらなかったのに・・。

 

潰れているにきびを弄られて痛がり、小さな悲鳴が聞こえました。わたくしは・・・お笑いください。痛がる娘の悲鳴に、ほんの少しだけ、「いい気味」と思ってしまったのです・・。女の性の業の深さを思い知りました。

 

チュッチュという音が聞こえてきます。痛めたにきびのあとを舐めていただいているのでしょうか・・。

 

「よしよし。こちらでの生活に少し慣れたら、にきびの治療をしてきれいにしてあげよう。ツルツルのお顔にしてあげる。そしたら今よりもっと可愛らしいお顔になるよ」

 

「本当?・・・嬉し・・・なん・・・とは・・・」

 

「アハハ、仔犬になってもやっぱり女の子なんだね。きれいにしてもらえるのが、そんなに嬉しいのかい」

 

 

あやされて、沙織のご機嫌は上々のようです。シュルシュルと、スカーフの外される音がしました。くぐもった声が聞こえてきます。ああ、これは・・・口づけの気配です。ああ、神様。わたくしの胸は張り裂けそうに波を打っています。まさかこの年になって、若い娘のような嫉妬の感情に包まれるなど、思いもよりませんでした。しかも嫉妬の相手は血を分けた娘だなんて・・。

 

「本当に初めての口づけだったの?」

 

「・・・」

 

「そう。可愛いね。リップクリームを塗っているのかな? とても甘い味がしたよ。もう少ししてあげようか。・・・ン・・・ン・・・。沙織ちゃんは口づけが大好きみたいだね。うっとりしたお顔が可愛いな。それにとても上手だよ。さ、もう少し練習しようか」

 

何度も口づけが繰り返されているようです。耳を精一杯に澄ましていると、さきほどわたくしにしてくださったように、沙織の唇をついばむようなキスがされているのが解ります。「チュッチュッ」という微かな音が、わたくしの心を般若のお面のように醜くさせます。

 

ああ、やはり舌と舌を絡み合わせ、唾液の交換もし合っているのでしょうか? キスの合間にお鼻や首筋にも、チュッチュとされているのでしょうか?

 

衣ずれの音が大きくなります。セーラー服のジッパーを降ろす「ジー」っという音が聞こえてきました。沙織はセーラー服を脱がされているようです。

 

「沙織ちゃん、可愛らしいおっぱいが出てきたよ。ほんの少しだけ膨らんでいるな。早くお母さんのおっぱいのように、大きくなりたいだろう」

 

「・・・・・です!・・・・な・・恥ず・・い」

 

「さあ、下も脱がすよ。おやおや、さすが仔犬だけあって、こんな子供の処女なのに、ココの濡れは充分だね。さっきお母さんが変な声を出していたのを聞いていたんだろう。それでこんなにしてしまったんだね。おやおや、可愛い尻尾も生えている」

 

「・・・・・めて!・・・言わ・・・お願・・・」

 

「恥ずかしがるお顔が可愛いな」

 

「・・・・るの。・・だって・・・やさ・・・・さい」

 

ピチャッと音がして、ご主人さまの愛撫が始まりました。

 

「あ・・あ・・あっ・・あっ・・ああっ・・ああっ・・・・・あああっ・・・あっ!」

 

きっと経験の少ない娘の扱い方にも慣れていらっしゃるのでしょう。初めてだというのに、沙織はとても気持ちよさそうな声を上げています。女犬の娘は人間の娘よりも、性的成熟はあらゆる面で早いと聞きましたから、これは当たり前の反応なのでしょうか。

 

「ああっ、ああっ、・・・・あっ! おじさ、あっ、まっ! ・・・あああっ! 気持ち・・い・・ああああっ!」

 

全身をキスされています。先ほど指で少し愛撫していただいただけで、わたくしはとてもいい気持ちにされてしまいました。あんな巧妙なテクニックを本格的に施されたら、ネンネの沙織などひとたまりもないでしょう。時折聞こえてくる「チュッ、チュッ、チュ」という音は、未発達の乳房を吸われているのか・・。「ピチャピチャ」と聞こえるのは、溢れた愛液で一杯の性器を、指でいじくられているのか・・。

 

ああ、ついにご主人さまは沙織に覆いかぶさり、挿入にかかられたようです。わたくしは立っていられなくなりました。

 

「さあ、奥さん。しっかりして」

 

床に座り込んだわたくしを抱き起こしてくれたのは、貸金業者の方でした。盗み聞きに夢中だったわたくしは、彼が戻ってきたことに少しも気がつかなかったのです。

 

「あーっ! あーっ! ああンっ・・ あ、ああーっ! おじさまァーッ!」

 

「ほう、クライマックスだな。女犬とのマンコは具合が良すぎて、「ハマッたらもう人間の女とは出来なくなる」とは良く聞くが、処女であれじゃあ、まんざら間違った説でもないようだな。痛がりながらも感じているようだね」

 

沙織は、破瓜の痛みに伴う痛声の合間に、嬌声も発しているようなのです。洩れ聞こえてくる嬌声を聞き分けて、業者の男はそんな下品なことを言います。

 

肉と肉の擦れ合う音・・。まぎれもなく、今、沙織はご主人さまに、一人前のメス犬として可愛がられているのです。激しい動きの中で時折、未経験の沙織を気づかう動きを伺わせる気配が伝わってきます。そんなご主人さまの、沙織を思う優しい心使いが、わたくしを激しい嫉妬の海にのたうたせます。

 

 

 

(5)悲しみの一夜

 

 

「泣いていたのかね、奥さん。愛しい色男を娘に取られて、悔し涙にくれていた、ってところかい」

 

図星を言い当てられて、頭がカーッとなってしまいました。わたくしは男をにらみつけます。でも、女犬志願の女がにらんだところで、恐くも何ともないでしょうね・・。

 

「俺が代わりにお相手を、と進言したい所だが、ま、そうもいかない。色男にはかなわないさね。さて、ところで奥さん、話は変わるが」

 

男はわたくしをベッドルームのドアから離してソファに座らせます。

 

「女犬の娘さんがああなっているということは、旦那との話はまとまったのだね?」

 

「はい・・柳沢さまはわたくしたち母娘を・・飼って・・くださるそうです・・」

 

屈辱の報告ですが、告げない訳にはまいりません。

 

「そうかい、そりゃ良かったな。それじゃこれを見てくれ」

 

男から一枚の書類を見せられました。「女犬志願者呼出状」と書いてあります。

 

「あの、これは・・?」

 

「奥さんの女犬志願書は、代書屋に書かせて既に提出してある。奥さんには今晩このホテルに泊まっていただく。朝になったらこの呼出状を持って、私と一緒に家庭裁判所へ行くんだ。そしたらその場で裁判官に家畜宣言を受けて、施設に直行だ」

 

「そんな、勝手に!」

 

「段取りだよ、段取り。手際が良いと言ってもらいたいね」

 

わたくしは呼出状を手に、ブルブル震えました。そんなばかな・・。施設へ行くのが明日だなんて!

 

「お願いです。明日だなんて勘弁してください。まだ・・まだ・・心の整理が・・」

 

「その呼出状をよく見てごらん。有効期限が明日までになっているだろう。明日を見送ると、また志願書を提出して一週間待たなきゃならねえんだ。すまねえが奥さんの我がままは聞けないよ」

 

その言葉でわたくしの運命は決定しました。わたくしは明日の朝、家庭裁判所に出向き、午後には家畜に改造されるために施設へ入所させられるのです。

 

「ま、今夜は可愛い女犬の娘に添い寝でもして、一緒に過ごすんだな。しばらくは会えねえんだ。うんと甘えさせてやりな。・・・もっとも、旦那が娘さんを離してくれるかどうかが問題だけどな」

 

娘の嬌声はまだ続いていました。驚いたことに、もうすっかり痛みは無くなったようなのです。ご主人さまのリズムに合わせて、経験の豊富な娘が出すようなはしたない声を、さっきからずっと上げ続けているのです。

 

「あーっ、あン。・・・あンあンあン。気持ちイイッ!・・・あっああっ、あっああっ、あっああっ、あっああっ、おじ・・まっ!・・・あああーっ!」

 

「女犬なら、最初に痛みを感じないのは珍しいことじゃない。旦那が羨ましい限りだな」

 

男はわたくしの心中も知らずに、呑気なことを言っています。

 

それにしてもご主人さまのなんとタフなことでしょう。挿入からもう二十分は沙織を責め続けていらっしゃいます。よほど沙織がお気に召したということなのでしょうか・・。

 

「なんて、はしたない声を・・」

 

あまりに淫らな声を上げ続ける沙織に、非難がましいことを言うわたくし・・。娘の無節操さにかこつけてはおりますが、嫉妬心が言わせる言葉に相違ありません。

 

「心配いらねえよ、奥さん」

 

男は、そんなわたくしの嫉妬心を簡単に見抜いて、わたくしの心変わりを防ぐ気だったのでしょうが、こんなことを言いました。

 

「最初、旦那には女犬の娘さんだけを買ってもらう話を持っていったんだ。利息の足しにでもと思ってね。ところが子供の女犬とのお遊びに、高い銭を払う気にはならねえ、と、こうきたもんだ。そんなら母親付きでどうだと水を向けると、旦那さん、イチもニもなく飛びついておいでなすった。奥さんの借金が帳消しになる金がかかるのにだよ」

 

「まあ・・」

 

「母娘セットでなきゃならなかった、って訳さ。これで少しは奥さんのプライドも、背が立つだろう」

 

それでもご主人さまの興味の中心がわたくしではなく、沙織にあることは間違いないでしょう。わたくしは一生、娘の沙織に嫉妬しながら、ご主人さまに仕えて生きていかねばならないの?

 

「娘が、それで幸せになるなら・・」

 

ともすれば人間の心を捨てた、鬼畜ばりの考えに陥りそうになる弱虫のわたくしでございます。無理矢理に母親らしいことを考えて、この場をやり過ごすことにしました。どちらにせよ、わたくしはご主人さまに承諾のお返事を差し上げたのです。後戻りは、もう、出来ないのです・・。

 

「わたくしが明日から施設に入ったら、娘はどうなるのですか?」

 

「安心しな。旦那が引き取ってくれる。飼育用の新しい家も用意するそうだ。あんたも施設を出たら、その家に直行だ」

 

一ヶ月間、わたくしが施設にいる間、ご主人さまと沙織は一緒に暮らす・・。また胸が苦しくなります。

 

結局、沙織は初床でたっぷり三十分近くご主人さまに可愛がっていただき、そのまま朝まで三度、四度と営みは続き、離してはもらえませんでした。二人がベッドルームから出てきたのは、もう陽が高く昇った頃でした。

 

わたくしはソファで横になったのですが、定期的に聞こえてくる沙織の嬌声に、まんじりともすることが出来ませんでした。寝不足顔のわたくしと対照的に、沙織は晴れ晴れとしたお顔で、ご主人さまの足元にまとわりついて甘えています。

 

沙織はご主人さまにピッタリと寄り添い、ご主人さまも常に沙織の身体のどこかに触れて、優しい愛撫を途切れさせません。わたくしが声をかけても上の空で、ご主人さまの側から離れようともしません。二人だけの睦言を共有した関係に割り入ることは、母親といえども出来ないことを思い知らされます。

 

仲睦まじい様子の二人を見ているのがつらく、食事もそこそこにわたくしは出発しました。二人は部屋から見送ってくれましたが、わたくしのことなど眼に入っていない様子が何とも悔しく、見られないように泣きながら、業者の男と家庭裁判所に向かったのです。

 

 

 

(6)熟女犬「ショコラ」の誕生

 

 

手続きはすぐに済みました。わたくしは法的に人ではなくなり、裁判官から家畜の身に落ちたことを宣告されます。すぐに施設へ送られて、翌日から家畜化治療の始まりです。三週間の注射と点滴で、わたくしの身体は少しずつ、人間とは違った身体になっていきます。

 

だんだんと指が痺れて動かなくなり、やがて指の機能は完全に麻痺してしまいました。

 

女陰はいつも濡れている状態になりました。少しの刺激で性器の周辺をベトベトにしてしまいます。

 

お外で、はだかにされても大丈夫な程に、体温調節機能が変化しました。

 

胃腸は、少し古くなった残飯や、火の通っていない肉類を消化できるようになりました。

 

唾液の量が物凄く増え、油断すると、すぐにお顔をベトベトにしてしまいます。

 

お尻に小さなポッチが生えてきました。やがて立派な尻尾に成長するでしょう。

 

犬歯が発達して、グングン伸びています。やがて牙のようになるのでしょう。

 

指が使えなくなると、生活のすべてをご主人さまに世話していただかなければ、生きていくことができません。わたくしは何よりも、指がもう一生使えなくなることに、畜化した自分を一番意識させられました。

 

一ヵ月後、わたくしはご主人さまの元に返されました。輸送トラックの檻から出され、沙織がご主人さまに首輪のリードを引かれて、玄関から出て来るのを見て「ああ、ご主人さまの元へ戻れた」と、ホッとした次の瞬間、わたくしは目を疑いました。二人が出てきた家は、わたくしと夫と沙織の三人で暮らしていた元の家ではありませんか!

 

ここはわたくしが、被害者の遺族に慰謝料を支払うために手放した、十年以上も住んだ郊外の小さな家の庭です。まさか、まさかこんなことが・・。

 

「やあ、みゆき。おかえり。どれ、服を脱がしてやろうね」

 

「あ、あの、この家は・・」

 

小さな庭で病院の入院着を脱がされながら、わたくしは思わず聞いてしまいます。

 

「この家に戻されたのが不思議かい? 売りに出された家は誰かが買うのだよ。役所関係の仕事をしていると、こういう時に便利なコネが使えるんだ。調べてみると、割と手頃な値段で買えそうだったので、私が君たち母娘を飼うために、この家を手に入れたんだ。コロンは大喜びしているよ」

 

沙織は犬の名前のコロンと呼ばれ、わたくしにニッコリと笑いかけながら、「ママ、お帰りなさい」と元気にあいさつをしました。今日のコロンの格好は首輪と、セーラー服の襟をデザインしたスカーフ付きの飾りを、肩から胸元の上までかけられているだけで、ペッタンコのおっぱいも下半身も晒しています。どうやらこれがコロンの日常着のようです。髪の毛は首元までのスポーティなショートカットにされていました。活動的な少女犬の沙織にとても似合っています。

 

最後に別れた日のように、ご主人さまにピッタリくっついている所をみると、二人の仲は更に深まっているのでしょう。眼は若い少女犬らしく精気にあふれ、彼女の毎日が充実していることを物語っています。にきびの治療をしてもらえたようで、お顔はツルツルのピカピカです。でもお顔が奇麗になったのは、ご主人さまに頻繁に可愛がられた美容効果も相当あると、容易に想像がつきました。

 

それにしても何と言うことでしょう。元の住み慣れた家に住める嬉しさよりも、ご近所の目を意識しながら、犬畜生の生活を送らなければならない辛さの方が勝っています。わたくしは奥さま連中の好奇な視線に耐えられるでしょうか?

 

ご主人さまは、わたくしをすっかりはだかにすると、前足の左薬指に光る指輪に気がつきました。

 

「おや、まだこんなものを嵌めていたのか」

 

前の主人との結婚指輪です。あわただしく身の回りの整理も出来ないまま、身一つで施設に送られたのですから、こんなものもしたままなのです。夫との婚姻関係は、わたくしが家畜宣告を受けた時、自動的に解消されています。畜生に落ちた身では、こんな品になんの意味もなく、もう未練も無いのですが、施設で取れとも捨てろとも言われませんでしたので、なんとはなしに付けたままでいました。

 

ご主人さまはわたくしの指から指輪を抜き取りました。入れ代わりに、丈夫そうな美しい首輪を取り出し、首を差し出すように言われます。

 

「いい品だろう。みゆきの為の特注品だよ」

 

そうおっしゃって、差し出した首にカチリ、と嵌めこんでくださいました。指輪は庭のダストボックスにポイッと放り捨てられました。

 

首輪からは長いリードが伸び、正面には小さな金属プレートがぶら下がって、わたくしの胸の少し上で揺れています。それには次のようなデータが刻み込まれていました。

 

名前 ショコラ号 

 

年齢 三十三歳

 

登録番号 HIV-0088949704

 

登録日 新暦二七二年 四月九日

 

更新日 新暦二七三年 四月八日

 

飼い主 柳沢敬一郎yanagisawa kei-ichiro

 

住所 山崎県蘭王市坂下1-13-6

 

緊急電話連絡先 5963-5963-5963

 

「柳沢敬一郎」がご主人さまのフルネームです。わたくしはプレートが誇らしく思えて仕方がありません。これはわたくしの所属を誰の目にも明らかにしています。迷子になってもこの札を誰かに見せて連絡してもらえば、ご主人さまはすぐに飛んで来てくれるでしょう。

 

わたくしは名実ともに、新しいご主人さまに所有されたことを自覚いたしました。わたくしを所有してくださるご主人さまがいる、守ってくださるご主人さまがいる・・。ああ、久しぶりに心の休まりを感じることができました。 

 

見ると、コロンの首輪もまったく同じデザインで、金属プレートも寸分違わぬサイズのものがぶら下げられています。

 

名前 コロン号 

 

年齢 十四歳

 

登録番号 γGTP-0017320508

 

登録日 新暦二七一年 六月十五日

 

更新日 新暦二七三年 六月十四日

 

飼い主 柳沢敬一郎yanagisawa kei-ichiro

 

住所 山崎県蘭王市坂下1-13-6

 

緊急電話連絡先 5963-5963-5963

 

あの仔もこれを取り付けられた時、同じような感慨にふけったのでしょうか?

 

「みゆき、お前の新しい名前はショコラだよ。いい名前だろう。貫禄タップリの熟女犬にお似合いの名前だ。気に入ったかね?」

 

「ハイ、ご主人さま。ありがとうございました」

 

ショコラ・・。わたくしは心の中で呟きました。上品で明るい印象の名前です。もとより犬畜生に、自分の呼び名をどうこう言うことなど出来ませんが、いいお名前を付けていただき、感謝の気持ちで一杯になります。

 

 

 

(7)しつけ係、奈緒の「最初のしつけ」

 

 

「さ、コロン。ママと並んでごらん。記念写真を撮ろう。おーい、奈緒。写真を撮るよ。出てきなさい」

 

「はーい」

 

明るい声の若い娘が玄関から出てきて、わたくしたち母娘の前にご主人さまと並んで立ちました。スラッとスタイルの良い、理知的な美人ですが、まだ十代のようなあどけなさがあります。

 

「喜多嶋奈緒くんだ。彼女は私の知り合いの娘さんで、この家の管理をしてもらっている。お前たち母娘のしつけ係りでもあるから、ショコラはしっかり言うことを聞いて、はやく犬のしつけを身に付けなさい。コロンはもう奈緒くんとは大の仲良しだよ」

 

「こんにちは、ショコラ。写真で見たとおり、お前は可愛い熟女犬ね。仲良くしましょう。私のことは奈緒と呼んでね」

 

わたくしのしつけ係・・。まさかこんなに若いお嬢さんにしつけられることになるとは、思ってもいませんでした。わたくしはてっきり、ご主人さまにしつけていただけるとばかり、思っていたのに・・。でも考えてみれば、お忙しいご主人さまが、四六時中わたくしどもの面倒を見られるはずもございません。わたくしは考えが浅はかだったことを知りました。

 

何枚か写真を撮るとご主人さまが集合写真を撮りたいと言い出されます。

 

「皆で並んだ写真も撮りたいな。あ、奥さん。すいませんが、シャッターを押していただけませんか?」

 

と声をかけます。ちょうど隣家の佐藤家の奥さまが、外出から帰ってきた所で、わたくしは「ああっ」と心の中で悲鳴を上げました。

 

「あら、みゆきさんは今日からお戻りだったんですね」

 

佐藤さんはわたくしが帰ってくる事をご存知だったようです。この分では、ご近所のみなさんにも知れ渡っている事でしょう・・。シャッター押しをこころよく笑顔で引き受けてくださり、庭に入ってご主人さまからカメラを受け取ります。犬の姿でご主人さまの足元に控えるわたくしには、

 

「まあ、奥さま。ご不憫でいらっしゃること」

 

そう言って頭をポンと一つ叩き、ニコリともしてくれません。真中にコロンとわたくしが這い、その両脇にご主人さまと奈緒さんが、それぞれのリードを持って立ちました。

 

「ほら、奥さま。顔が下を向いているわよ。こっちを向いていただけないかしら」

 

俯いたまま顔を上げられない私に、佐藤さんが声をかけます。ああ、初日からこんな辱めを受けるなんて・・。そんなわたくしの心の悲鳴を知ってか知らずか、奈緒さんがリードを短く持ち直し、顔を上げるように引っ張ります。

 

言うことが聞けなければお仕置です。でもわたくしは、昔よく一緒にお茶を飲んでおしゃべりしたり、買い物に行ったりしていた佐藤さんに、犬の姿の写真を撮られるのが恥ずかしすぎて、どうしても顔を上げられません。奈緒さんがしゃがみこんで、わたくしと目線を合わせます。今にも泣き出しそうなわたくしを見て、

 

「さ、ショコラ。恥ずかしいだろうけど、我慢するのよ。お顔を上げて写真を撮っていただきましょう。ほら、コロンをみてごらん。とてもお行儀がいいわよね。コロンにお行儀をしつけたショコラが、お行儀よくできないはずは無いわ」

 

頭を撫でられながら、年下の彼女にそう励まされます。コロンは笑顔で正面を向いていました。でも、わたくしは動けません。

 

「コロンが言うことを聞かないときは、どうやってしつけたの?」

 

「それは・・お仕置きをして・・」

 

「そうでしょ。今日からショコラは、しつけを受ける側になったのよ。言われたことが出来なければ、コロンにしたのと同じお仕置きを受けるのですよ」

 

「私だから恥ずかしがってるんじゃない? 私たち、お友達だったから。ねえみゆきさん」

 

「佐藤さん、この仔をみゆきさんとか奥さまというのは、やめてくださいな」

 

「あ、そうですね。みゆきさんは犬のお名前を、何て付けられたのかな? あら首輪に彫ってあるのね。ええと、何々?」

 

佐藤さんはわたくしのプレートを手にとって名前を確認します。

 

「ショコラっていうのか。良かったわね、みゆきさん。いえショコラちゃん。可愛いお名前を付けていただいて」

 

と言って、また頭をポンポンと叩いてくれました。そんな風にグズグズしているうちに、佐藤さんは家人に呼ばれて、家に引っ込んでしまいます。もちろん写真は撮れずじまいです。

 

「ショコラ、ダメじゃないか」

 

「コロン、教えてくれる? こんな時、お前はママにどんなお仕置きをされましたか? 正直におっしゃい」

 

奈緒さんに聞かれて、コロンはわたくしの方を済まなそうに見ながら報告します。

 

「はい。言われたことを恥ずかしがって出来なかった時には、「ご近所の方たちにはだかの犬の姿を、良く見てもらいなさい」と言われて、お家には入れてもらえず、はだかで庭に出しっぱなしにされました。とても辛いお仕置きでした」

 

「なるほど、それはいいわ。ショコラ、私も同じお仕置きをします。しばらくお前は庭で暮らして、ご近所の方たちにはだかの犬の姿を良く見てもらいなさい。コロンが使っていた犬小屋を用意しましょう」

 

この家の庭は柵が低く、中は丸見えです。前の道を通る人の誰にも、はだかの自分を見られてしまいます。こんな所で寝起きをするなんて、恥ずかしさに耐えられません。絶対にイヤです。ご主人さま、どうか助けてください!

 

「お願いです、後生です。勘弁してください。ご近所の奥さまたちとは、みんな顔見知りなのです」

 

わたくしは必死にお願いしました。ところが奈緒さんとご主人さまはびっくりした顔をして、こうおっしゃいます。

 

「まあ、主人の言うことが聞けないのね。お前は志願犬のくせに、家畜の自覚が足りません。これはお仕置きというよりも、お前への教育です。はだかの犬の姿を、顔見知りの方たちに晒して暮らしていれば、自分が家畜になった事を自覚しやすいわ」

 

「顔見知りなのはコロンも同じだっただろう。コロンと同じお仕置きをされるのは、同じ犬なのだから当たり前のことだよ。そんなことよりショコラは、主人の決定に最初から逆らう悪い仔だったのかい? これは驚いた。奈緒の言う通り、まだ人間のつもりでいるんだろう。犬の自覚が芽生えるまで、庭で暮らしなさい」

 

お慕いするご主人さまにここまで言われては逆らえません。それどころかご主人さまの期待に、初日から添えなかった自分が悲しくさえなりました。

 

こうしてわたくしは、お庭で暮らすことが決定しました。コロンが昔使っていた犬小屋が門の脇に設置され、わたくしの新生活がスタートしたのです。

 

<後編に続く>

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