悲しみのナディア

Figaro


NEW #10:悲しみのナディア『然るべき報い』


「ひ、・・・酷い・・・・、 な、何で・・・?こんな酷いことをっ・・・?」

ナディアは尿意も忘れ、無残な姿のエリアナ妃のことを尋ねました。

ナディアの問いにゲオルグは薄ら笑いを浮かべながら答えました。

「・・・んーっ・・・・?  何故かって・・・・こいつはなぁ・・・裏切りやがったんだよ・・!」

「え・・・・う・・・裏切るって・・・、 ゲ・・ゲオルグ・・・様をですか・・・?」

「・・・ああ、そうだ・・・いや・・・、 俺を含めた国民、国家全体をだよ・・・・!」

ゲオルグは途中で言い換えましたが、 どちらにしてもナディアには 彼の言っている意味が良くわかりませんでした。

しかし、なんにしてもこの仕打ちは酷すぎることを感じ、 ナディアは問い続けました。

「で・・・でも・・・、 こんな、何もこんな・・・こんな酷い目に逢う・・・ それ程酷いことをされたの・・・ですか?」

暗がりの地下室で全裸に剥かれ 傷だらけの身体で柱に括られている皇太子妃を見てナディアは 怒りにも似た感情を覚えました。

エリアナ妃は恐らく眠っているか気を失っているのでしょう、 僅かに差し込んだ光で照らされる顔は安らかな表情を浮かべています。 その美しさは見紛う事なき皇太子妃のものです。

「こいつらはな、何百億もの金を  独り占めにしてやがったんだ・・・。」

「・・・・何百億・・・・?」

「ああ、俺達の金、血税を巻き上げて、贅沢しまくってやがったんだ。  今もどこかに隠してやがるんだよ・・・。然るべき報いってやつだよ・・・くくく・・・。」

『だ・・・だからって・・・、 あなたはエリアナ妃にお世話になったのでしょう・・・?』

ナディアは心の中で思いました。 感情に任せて咽喉元まで声が出掛かるのを必死に押さえました。
下手をすれば銃殺、 少なくとも懲罰され庭師を解雇される憂き目に会っていたはずなのです。

それを救ってくれたエリアナ妃のこのような酷い状態を何故笑ってみてられるのか、 ナディアには全く理解できませんでした。

たとえ国税を私有していたとしても、 それが他国から嫁入った皇太子妃であるエリアナ妃にどれ程の責任があるでしょう、

”エリアナ様が本当に悪いの・・・?”

難しいことは判りませんでしたが田舎娘のナディアでさえ、、 皇太子妃が国税を動かすような機密内政に 関与している可能性は低いのではと なんとなくではありますが、感じます。

”ここまでしなければならないものなの・・・?”

ナディアの表情にはこのゲオルグの行為に対する 憤りの色を浮かび上がっていました。

しかし、当のゲオルグは全くそんなことは意に介しておらず、 安らかな眠り顔を浮かべるエリアナ妃の側に寄り、 血に汚れていない亜麻色の巻き髪を指で弄び始めたのでした。

ナディアはその様子を自分の大切なものを壊されるような 悲しく辛い思いで見つめるしかありませんでした。



NEW #9:悲しみのナディア「柱の女」


ナディアは恐る恐る柱の裏側に回りました。

ゲオルグが柱の前に立っているのが見えました。

彼の視線は肖像画が掛けられていた柱の根元に向けられていて 、そこには何か白い塊が巻きついているのがナディアにも見えました。

『もっとこっちへ来いよ・・・。』

とばかりにゲオルグが声に出さずに顎でナディアを誘います。

最初はぼんやりと白い塊であったものが 徐々にそれが人であることがわかり始めました。

しかし、その置かれた状態の悲惨さは、

「・・・ひっ!」

ナディアに思わず声を押し殺した悲鳴をあげさせるのに 十分な状況でした。

肖像画の柱に括りつけられているのは全裸の女性でした。

手足を無理やり柱の後ろ側に持っていかれ、 それぞれ木製の手枷足枷で固定されています。

更に無残にも彼女の両乳房は 数本の鉄串によって刺し貫かれていました。

縦にそれぞれ1本づつ、 横には2本の鉄串が両乳房を繋げるように刺し貫かれ、 その全ての鉄串の先端は鋭角に曲げられて 容易に抜けなくされているのです。

乳房はそのいたぶりにより、 赤紫に変色し腫れ上がっています。

更に黄金の恥毛に覆われた剥き出しの股間は、 恐らく彼女の体重の殆どを支えている形で 金属の鋸の歯状になった梁に食い込んでいます。

そしてその下側には、この部屋の悪臭の根源であろう、 彼女が排便したであろう糞尿の塊が見えました。

「こんなに溜まっちまってる・・・臭えわけだ・・・。 また、1320号に片付けさせんとな・・・。」

糞尿を眺めるゲオルグは言葉自体は 嫌そうな口ぶりではありましたが、 顔は相変わらず歪んだ笑みを浮かべています。

ゲオルグのその言葉と彼女の様子から この悲惨な女性がこうしてここに留置されているのは 既に数週間、いや数ヶ月が過ぎていることを感じさせました。

唖然として見ているナディアを見て、 ゲオルグは愉快そうに柱の女を顎で示しながら問いました。

「くくく・・・、これが・・、  誰だかわかるか、ナディア・・・・。」

「・・・あぁぁ・・・。」

ナディアには既に分かっていました。 酷く殴られたと見える顔の片側は傷と血液で赤紫に染まっており、 額には"1321"と数字が烙印されていました。 しかし余りにも変わり果てた姿ではありましたが、 その見事な金髪と無傷な片顔の相貌は エリアナ妃であることは間違いありません。

「な・・・なんで・・・?」

「いひひひ・・・、 何でだろうな?ぐふふふ・・・・・。」

ゲオルグはナディアの驚きに満足げな笑みを浮かべ、 エリアナ妃を見下ろしているのでした。



#8:悲しみのナディア「エリアナ妃」

「・・・ゲオルグ・・・でしたね、ごめんなさい、驚かせてしまいましたね。」

エリアナ妃はゲオルグに語り続けました。そして警護役の女にも微笑みながら、

「シモナ、ありがとう、最近新しい庭師がはいったことは聞いております。」

「はい・・そうでしたか。」

シモナと呼ばれた警護役の女はエリアナ妃に頭を下げ銃をしまいました。

「・・・最近のお庭、とっても綺麗で嬉しく思っていました。

お礼を伝えようと思っていた矢先だったのに・・・、ごめんなさい。」

「い・・・いえ、そんな、滅相もない・・・。」

「おいっ!皇太子妃に直接話すなど・・・」

「いいのです・・。」

直接、口を聞こうとしたゲオルグに向かって警護役の女を制し、エリアナ妃は続けました。

「これに懲りずに、これからもがんばって下さいね・・。もし、仕事が片付かないようだったら、私の時には居てもいいですよ・・・。」

「は・・・はいっ!あ・・・ありがとうございますっ。」

ゲオルグは自分の回想をナディアに語りました。

「あの時の、真っ白に輝いたエリアナ妃の美しかったこと・・・、優しげな笑顔・・・、俺は忘れねぇ・・・。あの後、エリオナ妃の姿を見ようと、エリアナ妃が散歩の日には俺はわざと仕事を遅らせたりしたんだ。でも毎回だと流石にまずいかとおもって・・・それでも3回に1回にしたんだぜ・・・・。」

ゲオルグは時折、ナディアのほうを向いて得意そうに話します。

確かにこんなところにエリアナ妃の肖像画があるのかは不自然ではあるけれど、ナディアは何故こんな話をゲオルグは私に聞かせるのだろう、それよりもはやくおしっこをさせてほしいとの気持ちが更につのってきていました。

でも、ゲオルグは話を続けます。

「・・・でもよ、エリアナ妃はそんな俺に気がつくと、笑顔を浮かべて、いつも言葉を掛けてくれてたんだぜ・・・。けれど、それから半年も経たない内にクーデターが起きやがったんだ・・・。」

ゲオルグは絵を見上げながら、少し顔を歪ませました。

「・・・ふふ、ナディア・・・なぜ、エリアナ妃の・・・、 皇太子妃の絵がこんな所にあるか不思議に思ってるんだろ・・・?」

「・・・え・・は、はい・・・。」

「ふ、ふふふ・・・くくく・・・、 そうだろうな・・・、こんなに臭い地下の一室になんで・・・飾られているのか・・・?ぐっふふふふふ・・・わからんだろうな・・・。」

ゲオルグは楽しくてしょうがないとばかりに絵を見上げながら、ナディアに語り掛けました。

「教えてやるよ・・・・、こっちへ来い・・・。」

ゲオルグはゆっくりとエリアナ皇太子妃の絵が掲げられた柱の裏側に歩いてゆきました。

ナディアは言い知れない恐ろしいものがそこにあることを感じ、足がすくんだまま動けませんでした。

「来いっ・・・!」

しかし、再び恐ろしい顔で怒鳴りつけるゲオルグの命令に

ナディアは逆らえず、おぼつかない足で肖像画の裏側に歩みを進めたのでした。



NEW #7:悲しみのナディア「庭師ゲオルグ」

「まぁ・・・綺麗、ほんと、もう春ね・・・。」

透き通る優しげな女性の声が宮廷の庭に響きました。

宮廷の庭は春の訪れを謳歌するように花が咲き乱れていました。

ここの庭師として雇われて間もないゲオルグは庭の枯葉や雑草をまとめている最中にその声を聞き驚きました。

「ああっ、しまったこんな時間だ!」

王族の散歩の時間は決められており、その時間帯は庭師は退去していなければならないのです。

温暖な日が続いた所為で想いのほか、雑草が植えた草花の周りに茂っていました。

庭の様子も宮廷の決まりごとにも不慣れなゲオルグは整備の不備を責められることを恐れて夢中で刈り込んでいた為、思わず時間を忘れてしまっていたのでした。

見つかれば、厳罰が下されることをゲオルグは宮廷長から伝えられています。

「・・・ど、どうしよう・・・、見つかったら・・・。」

命まで奪われることはないにしろ、宮廷に勤める仲間からクビは当然、酷い体罰も加えられることも聞いていました。

ゲオルグは身を屈め、植木の陰に身を潜めました。

「チューリップも今が盛りね・・・ほんと、きれいね・・・。」

しかし、話し声はゲオルグのに近寄ってきます。

「ああ・・・、こまった・・このままでは見つかってしまう・・・。」

ゲオルグは意を決して四つん這いになり、庭から逃げ出そうとしました。

・・・・ガチャン!

屈んで向きを変える瞬間、腰のホルダーに入れた庭バサミを落としてしまいました。

「そこっ、誰かいるの!出てきなさい!」

さっきまで聞こえてきた女の声とは別の女の低い声が響きました。

慌てて逃げ出そうとするゲオルグの傍らに、その女が拳銃を片手に駆け寄り構えました。

「う・・・撃たないでくれっ・・・!」

「誰だ!・・・軍部のものかっ!?」

「ち、違いますっ!・・・に、庭師です。庭師のゲオルグと申します。」

戦火がこの国にも近づいてきており、軍部の圧力が行政内閣にも及び始めた頃でした。

王族の護身の為に警護役が付けられていました。

「見掛けない顔だっ!」

「・・・やっ、雇われたばかりなんで・・・!お、お許しを!」

厳罰どころか命の危険まで感じたゲオルグは頭を地面に擦り付けて詫びました。

「・・・銃をひきなさい、シモナ・・・。」

「・・・エリアナ様・・・、しかし・・・。」

「・・・いいのです、さあ、頭をお挙げなさい。」

白い服を纏ったエリアナが優しくゲオルグに声を掛けたのでした。 



#6:悲しみのナディア「皇太子妃の絵」

「どうだ、美しいだろ・・・。」

僅かな地上の光を反射して輝くその絵は一人の若い女性が描かれていました。

赤いドレスをまとい、綺麗に結われたブロンドの髪の毛の上には銀色の冠が飾られていました。

それ以上にその顔には気高さと神々しさが溢れていました。

「どうなんだよ・・・。」

「は・・・はい、お美しいです・・。」

ナディアは素直に思いました。しかし、何故こんな所に・・・、既に部屋に入って数分は経とうとしているのに
鼻腔を襲う異臭は衰えません。

天窓が開いてなければ、きっともっと酷い臭いでしょう。こんな場所に全く似つかわしくない絵なのです。

「誰だか分かるか・・・?」

「は・・・はい、エリアナ妃です・・・。」

辺境に住むナディアもその姿は見知っていました。ナディアが産まれる2?3年前、15歳の若さでこの国の皇太子に嫁いで来た隣国の王女です。

その美しさと気高さは当時から国民の間でも騒がれ、彼女の産んだ王子と二人の王女は彼女と共に王室の人気の的です。

平和だった頃、救護院や病院、孤児院の設立などにも尽力し、美しいだけでなく優しく慈悲深い人柄に国民は惹かれたのです。

ナディアも隣町の掲示板に時折り、貼られるその宮廷公報でエリアナ妃の姿や行いにに好意を抱いて一人でした。

今回の軍事クーデターの後、消息が分からないことを街の噂で聞いていました。

「そうだ、エリアナ妃だ・・・。綺麗だよなぁ・・・優しくて、まさに女神だよな・・・。」

ゲオルグは本人がそう言うとおり、美しい女神像に憧れる少年のような相貌で語り続けました。

「俺はな・・・、宮廷の庭師をしていたんだ・・・。」

ゲオルグは部屋の臭い等、忘れたような恍惚とした表情で語り続けました。

 


NEW #5:悲しみのナディア「13号室」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」

ナディアは再び長く冷たい廊下を歩き13号室の前に着きました。

13号室の扉は閉められているのにその中から異臭が漂ってきています。

『・・・お便所なのかしら・・・?』

けれどナディアが尿意を伝える前に13号室に向かうことは決まっています。

不思議に思いながらもナディアはゲオルグがドアのノブの鍵を外す行為を見つめていました。

ガチャガチャ・・・ガチャン、キ?・・・・・・、

扉が開けられた13号室のむっとする異臭はナディアたちのいる廊下に流れ込んできました。

「行くぞ・・。」

ドアのノブを押し開きながら話しかけたゲオルグの顔が嬉しそうなことにナディアは気が付きました。

ゲオルグの微笑の意味を疑問に思いつつもナディアはゲオルグの後に続いて入りました。

中は薄暗くは有りましたが、壁の最上部に何箇所か地上の光が差し込むような
天窓が設けられていました。

「・・・どうだナディア・・・!」

ゲオルグが嬉しそうな声をあげて部屋の中央を指し示しました。

ゲオルグの指差したそこには光が刺し反射している一枚の絵が飾られていました。

「ほらっ・・・こっちに来てよく見てみろ!」

尿意がつのり、それどころではないのですが、逆らうことを避け、ゲオルグが招き入れるのに応じてその絵を見上げました。

「ああ・・・」

ナディアはその絵を見て小さな驚きの声をあげました。

そこにはこんな異臭がする場所には似つかわしくない肖像画が飾られていたのです。



#4:悲しみのナディア「13号室へ」


「ゲオルグ・・・、では、13号室へ。」

「え・・・13号室ですか?」

「ああ・・・。」

ヨランダは意味深な笑いを浮かべました。

「はっ!」

ゲオルグもそれを察したらしくヨランダに敬礼をしました。

その様子を見て、ナディアは二人の顔を見て尋ねました。

「じゅ、13号室にジャ・・・ジャンがいるの?」

「うるさいっ!13号室にはいないっ!」

ゲオルグはそう答えるとドアに向かって歩き、

「・・・こっちだ、早く来いっ!」

ナディアに声を掛けながら扉を開きました。

ナディアは枷のあとに、両足に金具を装着されています。

「・・・・・・。」

足環となっているその金具でさえかなりの重さです。

これからその金具に錘を付けられて様々な拷問を受けることなど、今のナディアに想像がつこうはずもありません。ナディアの心の中にはジャンの心配しかありません。

今から向か13号室にジャンがいないことを知り、気落ちしながら、ナディアはドアに向かいました。

ナディアは黙ってゲオルグの後に着いて行こうとしました。

「はやくこいっ・・・返事は!?」

パシンッ!!

「あうぅぅっ!!」

ジャンにも打たれたことの無い、薄桃色の頬が赤く腫れました。

「これからは命令されたら、「はい、わかりましたゲオルグ様。」と返事をするんだ!わかったか!?」

「は・・・はいっ!わ、わかりました、げ、ゲオルグ様!」

おびえた表情でナディアは返事をしました。

「では、失礼します。」

「うむ・・・。後で行く。」

ヨランダはゲオルグの挨拶を聞くと、自分もその部屋を後にし自分の執務室に戻りました。

重い首枷が首や顎をすり、ナディアは思うように歩けません。

「早くせんかっ!」

「は・・・はい・・・。」

それにナディアには他にも早く歩けない事情があったのです。

「あ、あの・・・・、ゲ・・・ゲオルグ様・・・。あの・・・・。」

「・・・・なんだっ!?」

「あ、あの、お、お便所に・・・。」

「はぁっ!?」
「あ、あの・・・、おしっこが・・・も、漏れちゃいそうなんです。」

赤く腫れた頬を更に赤くさせ、ナディアが訴えました。

「なにぃっ!?犯罪者の癖に俺に便所に連れていけっていうのか!?」

「あ、あぁ・・・ごめんなさい・・・。」

ナディアはゲオルグの怒気を含んだ返事にまた顔を打たれるのを予感しました。

けれどゲオルグは少し、考えたそぶりをし、

「・・・ふふん、ちょうどいい・・・。」

「え・・・?」

「いや、なんでもない・・・・、させてやるよ、そのままついて来い。」

「は・・・はい・・・。」

意味深な笑みを浮かべ、13号室に向かうべく歩き始めました。

ナディアも排尿感に焦らされつつも、今、ここで打たれたら、今度は間違いなく漏らしてしまうことを危惧していたナディアはゲオルグの後に続いたのでした。




#3:悲しみのナディア 「尋問」


椅子に座り、組んだ足をコンクリートの床におろしヨランダは構えました。

「・・・レジスタンスとの連絡方法、レジスタンスとの連絡員の名前だ。」

口調をやや厳しくしナディアに尋ねました。

「え・・・、し、知りません・・・。ほ、本当です。知りません。」

身体を震わせ、ナディアは答えました。

「・・・・奥さん、・・・あんたもか・・・?そうやってしらを切りとおすことが出来ると思ってんのか?」

「ほ、本当に知らないんです。信じてくださいっ!き、きっと・・・ジャンも・・・夫も・・・!」

必死になってナディアは無実を訴えました。

「そうかな・・・・?国境の山越えの案内にジャン、あんたの亭主が一役、買ってることはある筋から情報として入ってるんだよっ!?」

「ほらっ!知ってることを吐かんかっ!?」

後ろから、ゲオルグがナディアの亜麻色の髪を掴み引っ張ります。

「亭主は昼間、何をしてるんだっ!」

そのまま、耳元で怒鳴ります。それに向かって、

「は、畑仕事や薪狩りですっ!そ、そんな山越えの案内なんて・・・!」

そう必死に答えるナディアに、椅子に座ったままのヨランダが

「・・・・してないって言うのか?」

と、落ち着いた声で尋ねました。

「は・・・はいっ!」

ヨランダのほうに再び振り向いてナディアは答えました。

「ふぅぅ・・・、そうか。」

ギシシッ・・・・。

木の椅子に再び深く座りなおしたヨランダが深いため息と共にゲオルグに向かって呟きました。

「・・・ゲオルグ・・・、この奥さんとも永い付き合いになりそうだ・・・。」

「え・・・?」

ナディアの訴えに納得してくれたかのように見えたヨランダのその言葉に、ナディアは一瞬戸惑いました。

「・・・枷だ・・・・。」

「はっ!」

ゲオルグは短く返事をすると部屋の片隅にあった、木の枷を持ってきました。

「な、何をするの・・・?」

ガタンッ!

椅子を後ろに倒し、ヨランダは立ち上がって枷を受け取りました。

そして、ゲオルグは乳房を隠すナディアの両腕を掴みあげました。

「い・・・いやあぁっ!」

「奥さん、白状してもらうまでここにいて貰おうっ」

ガチャ・・ガチャガチャ・・・!

「い、いや、許して・・・・いやっ・・・」

いくら抗ってもゲオルグの力はナディアの腕を持ち上げ、ヨランダが枷を嵌めやすくするためにがっちりと固定しています。

ガチャガチャン・・・・パチンッ・・ガチン!

「これでもう、奥さんはゲオルグが持つ鍵が無い限り、この枷から逃れることは出来ない・・・。」

「いやぁっ!は、外してっ・・・外してくださいっ、お、お願いします。」

「じゃあ・・・吐くか?」

「だ・・・だから、そ、それは本当に・・・。」

ビリッリリッィィィ・・・・!

「きゃあぁぁぁっ!」

ナディアに残された最後の一枚が引き裂かれ、足元に落ちました。

「・・・じゃぁ、しょうがないな・・・・。」

「い、いやっ・・・いやぁぁっ!」

「静かにしろっ!」

身重にも関わらず、ナディアは腕から枷に拘束の手を移し変えたゲオルグから逃れようと足をばたつかせました。

「オラッ、じっとせんか!」

ゲオルグがナディアの首を掴みます。しかし、ナディアは

「いやぁぁっ!いやっ・・・!!」

羞恥に打ち震えて声を荒げます。

ブツンッ!

「あひぃっ!」

ヨランダがナディアの股間を茂らす陰毛を掴んで一気に数十本を引き抜き怒鳴りました。

「直立だ!ナディアッ!」

「・・ひっ・・・・は・・・はいっ!」

ナディアはヨランダの今までの口調からは信じられないような怒声にうろたえ、伸ばしました。

「白状するまで、お前もジャンも帰れないことをよぉく肝に銘じるんだっ!」

「ひっく・・・ふぐっうぅぅ・・・。」

知らないと言っても今は無駄であることを悟ったナディアは黙ってヨランダの言葉を聴きました。

「早く出たければ、正直に私達に協力しろっ!」

「・・・・・ひっく・・・。」

大粒の涙を溢しながら、ナディアは頷きました。

「それにしても、ナディア、お前、いくつだっけ?」

「・・・じゅ、じゅう・・・十七歳です・・・。」

「ふっ・・・可愛い顔している割に、剛毛だなっ?」
ヨランダが自分の右手にある引き抜いた金色に光る陰毛と、ナディアの股間に生い茂る密林を見ながら呟くと、ゲオルグと二人でげらげらと大笑いをしたのでした。

ナディアはその屈辱とこれから自分に降りかかる不安にただ身を震わせるのでした。





#2:悲しみのナディア「連行」


ナディア達を乗せた車は古城の中庭に停められました。

車を降りるとナディアは唖然としました。

村の子供達のためにとナディアを含む村人達が手入れをし花が植えられていた中庭が、今や軍用車や軍用バイクが乱雑に駐車され、見る影も無い状態なっていました。

その有様を嘆くまもなく、ナディアは再び両腕を二人の兵士に後ろから抱えられ、城の裏に連れて行かれました。

城の裏、そこには村人達が立ち入り禁止にしている錆びた鉄の扉がありました。

ナディア自身も幼い頃からこの城に訪れていますが、その扉の奥に何があるのかを知りませんでした。

ただ『開けると恐ろしいことが待っている・・・、悪いことをするとお城の番人がやってきてそこに連れ込まれるよ・・・。』と村の年寄りに驚かされていたのを憶えているのみです。

ギィィッ・・・・。

扉が不気味な音を立てて開きました。

ナディアは身をすくませ、後ずさりしようとしましたが、二人の兵士に抑えられそれは許されませんでした。

逆に扉の方に押しやられるのです。

思わずナディアは腕を掴んでいる兵士に尋ねました。

「・・・あ、あの、この中に、ジャンは・・・、夫はいるんですか・・・?」

夫がいるのなら、どこにでも行けると覚悟を決め、聞いたのですが、兵士は無言のまま扉の方にナディアを推し進めようとするだけです。

居た溜まれずナディアは叫びました。

「あ、あの、ジャンはいるんですかっ?!答えてぇっ!!」

悲鳴にも似たナディアの問い掛けに、先導し扉を潜ろうとしていた兵士が怒りの形相を浮かべ、ナディアの前に立ちました。

バシッ!

「ひっ!」

ナディアは頬を強かに打たれました。

「だまれっ!お前に質問をする権利は無い!ふん ・・・旦那がいるかどうかは中に入ってから確認すればいいだろう・・?」

兵士は冷たい笑みを浮かべて、再び扉の方に向かい、中に入って行きました。

ナディアはこの扉の向こうに夫がいることのみを願い、後に従ったのでした。

中に入ると、そこには暗く湿った空気が覆う石で作られた階段がありました。

それを降りていくと取り付けられたばかりの電灯で薄く浮かび上がる廊下がありました。

幾つもの扉があり、廊下の奥がどこまで続くのかは全く分かりませんでした。

ナディアは頬に触れる冷たい空気と裸足に伝わる石の冷たさに震えながら、その扉の向こうの一つ一つに夫の気配が無いか、声が漏れ聞こえてこないか、けなげに夫の消息を探りました。

けれど、聞こえてくるのは地下道に響く、兵士の靴と銃が金具に当たる音だけです。

兵士達はきっと答えてくれません、地下道に入る前の兵士の言葉を思い返し、ナディアは堪り兼ねて再び声を震わせて叫びました。

「あ、あなた〜!いるの?私よ、ナディアっ!いるんだったら・・・!」

バシッ!

「あうっ!」

悲痛な声で叫ぶナディアの頬を先導していた兵士が再び大きな手で叩きました。

「騒ぐなっ!素直に俺達の言うことを聞くんだったら逢わせてやるっ!」

「あ・・あ・・・。」

ナディアは震えながら為す術も無く、再び脇を抱えられた兵士に冷たい地下道を引き摺られるように歩かされました。

そして、ひとつの扉の前で兵士達は立ち止まりました。

「連行しました!」

先導していた兵士が扉の向こう側に向かって叫びました。

「分かった・・・、入れろ!」

扉の向こうから声が聞こえてきました。

「はっ!」

先導していた兵士がナディアの方に向き直り、いきなり、ナディアの着ているドレスの胸元をエプロンごと掴み下に引き裂きました。

「きゃあぁぁ・・・っ!」

洗いふるしのナディアの服は、いとも簡単に真っ二つになりました。

突然の出来事に抗うナディアを抑えつけながら、両脇の兵士はナディアの腕から破れた布と化した服を取り去りました。

「悪く思うなよ、一応、武器を持っていないか確認しなければならんのでな・・・。」

服を引き裂いた兵士はナディアにそう語ると、再びドアのほうに向き直り、

「入ります!」

と叫んだ後、ドアを開き下着一枚となったナディアを押し込みました。

部屋の中には椅子に座った軍服の上着を脱いだ高官らしい兵士と、私服の男性が立っていました。

「ご苦労・・・。」

「はっ!」

椅子に座った兵士のその声で、連行してきた兵士達は部屋の外に出て行きました。

ナディアは私服の男性兵士に背中を押され、椅子に座る兵士の前に立たされました。

「・・・さて、お嬢さ・・・、いや、奥さん、乱暴なことをしてすまなかったね。」

椅子に座った兵士はナディアに微笑みながら語り掛けました。

「・・・ナディアさんだったね、・・・ああ私の名はヨランダ、中央から派遣された軍人だ。それと、彼の名はゲオルグ、民間人だが、いろいろと役に立つ男でね、 私が個人的に雇っている男だ。」

「・・・・・。」

ナディアは両手で臨月を迎えた豊満な乳房を二人の目から隠しながらも、なんとかジャンの消息を聞くことが出来ないかとヨランダの話に耳を傾けました。

その様子に気づいたのか、ヨランダはジャンのことに触れました。

「・・・旦那さんがね、・・・ジャンさん?彼がねぇ・・なかなか私達に協力してくれないので、困っているんですよ。」

ゆっくりと語るヨランダの口から夫の名前が漏れた途端、ナディアは堰を切ったように質問をしました。

「・・・ジャ、ジャンは・・・、夫はここにいるんですかっ!?お、教えてっ、教えてくださいっ!」

ナディアの剣幕に、苦笑を浮かべながら、ヨランダは答えました。

「・・・まあ、待て・・・、待ちなさい。旦那さんのことは奥さん次第で教えてあげよう。」

「・・・・・?」

「我々に協力してくれるかどうかだ・・・・?」

「し・・・、します。何でもしますっ!だ、だから、夫を・・・ジャンを返して下さい!」

「ははは・・・、そうか、それなら話が早い・・・。では、聞かせてもらおう・・・。」

ヨランダの目がいきなり鋭くなり、ナディアを見つめ返しました。

ナディアはその瞳の冷たさに震えながらも、ヨランダの口元を見つめ、

彼の質問を待ったのでした。





 

NEW #1:悲しみのナディア「プロローグ」


ナディアとジャン、二人は東ヨーロッパの小国のはずれの小村に住む夫婦です。

母方のいとこ同士でもある二人は、幼い頃から仲が良く、去年、相思相愛の想いを実らせ、めでたく結婚をしました。

世界は2度目の大戦を迎え混沌としていましたが、目立った産業も無いこの片田舎の村にその余波は殆ど無く、木こりのジャンの薪や手作りの木細工、ナディアのお手製の織物を隣街の共同市で売り、自給自足のできる程度の畑で手に入れられない食べ物や雑貨を買ってしのぐといった慎ましい生活を送っています。

何よりも二人は人が羨むほど仲が良く、21歳のジャンは勤勉で妻に優しく、17歳のナディアもその笑顔は見ると誰しも幸せな気分にさせる明るい娘なのです。

しかもあと2ヶ月もすれば二人の間に授かった赤ん坊が生まれてくる予定です。

貧しいながらも二人はとても幸福に暮らしていました。

しかし突然、事態が急変したのです。

今の大戦の一方の枢軸国がこの国の国政に介入してきたのです。

前の年に連合国側の大国が侵攻されてきた事も有り枢軸国と繋がりのあった軍部が政権を握り、その大国からその占領地域を帰属させたのです。

戒厳令が敷かれ、独立はしていますが、平和主義だったこの国の王族は幽閉され、事実上、枢軸国の隷属下に入ったのでした。

同時に隣国とも親しかった為に中央に忘れ去られていた国境に近いこの村が突然最重要拠点となったのです。

村の外れにある中世以前に立てられた古城に軍事支部が置かれました。

いつも飛び交っていた明るい笑い声が村から途絶えました。

「いつか、終わるよ、それまでの我慢だよ・・・。」

めったに家の外に出ることが出来なくなった夫婦はお互いを励ましあっていました。

軍部が置かれ、1ヶ月も経ったある日のことでした。

ドカッ!

二人が朝食を食べていると家の扉が荒々しく蹴破られ、数人の兵士が押し入ってきたのです。

そして分隊長らしき一人の兵士が二人に向かって怒鳴りました。

「お前達がレディスタンス達を匿い、隣国に逃がしていることは判ってる!!城(軍部)まで来て貰おうか!」

「・・・な、なんのことですか・・・言っていることが分かりませんが・・。」

席を立ち上がり、夫のジャンが兵士に向かい言いました。

「しらばっくれても無駄だ、証拠は掴んでる!・・・命令拒否はそれだけで反逆罪とみなす。」

ナディアは座ったまま、恐怖に身重の身体を細かく震わせ夫の顔と兵士の顔を交互に見つめました。

「わかりました・・・。う、伺います。」

ガタ・・・

「あ・・、あなた・・・。」

ナディアも思わず立ち上がりジャンの腕にすがりつきました。

「だいじょうぶ・・・。何にもないんだから・・・。」

ジャンはナディアの両肩を抱き、優しく語り掛けました。

兵士達はそんな二人を荒々しく引き離し、ジャンの両腕に手錠を掛け、家の外に連行しました。。

ナディアもその後を追いかけ、家の外に出ました。

「・・・ジャン・・・。」

ナディアの投げかける言葉にジャンは振り返り優しく笑いかけました。

「直ぐに戻るよ・・・。」

二人の兵士に両脇を抱えられて歩いていくジャンの後姿が丘の向こうに消えさったあとも、ナディアはいつまでも見つめ立ち尽くしていました。

ナディアの一人での生活が始まりました。

家の外には兵士がいて、ナディアの一挙手一投足を見張っています。

2日間、心配が募り何も口にすることが出来ませんでした。

『・・・あ、赤ちゃんの為に食べなきゃ・・・。』

3日目の朝、ナディアは今、自分が出来ることは元気な赤ちゃんを産むこと、そして二人で夫を優しく迎えること、それが夫に対して出来ることだと自分に言い聞かせ、野菜スープとパンを食欲の無い胃に流し込み始めました。

スプーンを口に運ぶ度に、いつも目の前にいた優しい夫の笑顔を思い出し涙が溢れました。

「ジャン・・・うぅ・・」

カチャーン・・・。
今、夫はどうしているだろう、落としたスプーンを拾う気力もない、そうした悲嘆にくれる日々が続きました。

6日目の朝、ブルルル・・・、キィィ・・・バターン、バタン・・・!

家の外で聞き慣れない音が響きました。

「ジャ・・・ジャン・・、帰ってきたの?」

気を紛らす為に始めたけれど、はかどらない編み物の手を停め、ドアに駆け寄ろうとしました。

その瞬間、再びドアが荒々しく開けられました。

「ナディアッ!お前を連行する!」

「・・・・っ!え・・・あ、あ・・・あの夫は・・・ジャンは!?」

「うるさいっ!黙ってついて来いっ!」

ナディアは両脇を二人の兵士に抱えられました。

家の外には軍用車とバイクが停められていました。

ナディアは軍用車の後部座席に押し込められ、両側のドアから乗り込む兵士に中央に追いやられるように乗せられました。

自動車に乗る・・、奇しくもそれはナディアにとって初めての経験でした。

『すごいね・・・・!いつか、一緒に乗ってみたいね・・・』

昨年の暮れに隣町の市場で、石畳の道を颯爽と走るガソリン車をジャンと二人で初めて見たのでした。

それまでにも蒸気自動車を同じ隣町で見かけたことはありましたが、黒光りしたボディのその乗り物を見たジャンの目を輝かせる無邪気な笑顔を思い出しました。

「・・・ジャン・・・。」

ブルルウ・・・、エンジンが掛けられ、車は動き始めました。

両脇の兵士の向こうの車窓からいつも二人で歩いていた景色が目に入ります。

「・・・ジャン・・・、・・・・ジャン・・・。」

夫の名前を何度も呟き続けるナディアの声は舗装されていない田舎道をガタガタと無機質な音をたてながら進む車の振動にかき消されたのでした。


 

  [BACK]   [NEXT]   [LIST]