霧枝は、薄暗いホテルの部屋にゆっくり吸い込まれるように入って行った。
先に入った男からわざとやや遅れるようにして。
だけどそうするのは男が嫌いな訳では勿論ない。照れていたのだ。
霧枝は恋しくてたまらない男には少女のように躊躇っていまう癖があった。
部屋に入ると、男は落ち着いた物腰しでソファに腰掛けた。そして霧枝をじっと見つめていた。
背が高く大柄なその男は、軽い口調の裏に、心の何処かに「嵐」を待つ夜の海のような孤独を抱えている深い目をしていた。
その男の目が今、自分を真直ぐに見つめていた・・見返すことなど出来る筈もなく・・
霧枝は男から離れたまま自分の上着をぎこちなく脱ぐと、やっと小さな声で
「お風呂を先にいれますか・・?」
とこわごわ尋ねた。すると男は、
「ああ…」
目の色はそのままに、口元だけ緩やかな微笑みを浮かべて静かに答える・・
その微笑みに簡単に心を釘付けにされてしまう自分を隠すように、背を向け、
「今、準備します」
ドアを閉めると、急き立てられるようにストッキングとパンティーを脱ぎ、ワンピースを取り去った。
急ぐ要素は何もないと言うのに・・。あるとすれば男を欲しがっている自分の躯だけ・・。
ドアの向こうからでも男の視線を感じるようで、躯の芯が熱く、熱く、火照ってくる・・
「ああ・・・」
片足ずつ床に膝をつき、溜め息をつく・・彼が欲しい・・・
目を閉じて・・期待と恐れを抱きながら慣れない手付きでバスのお湯を湯舟に注ぎ始めた。暗い風呂場に煙りが立ち上り、まるで別世界のようだ。
何が欲しいのか、どうしたいのかこの煙りを眺める度に不思議な気持になった。
ただただ、 霧枝は何かを待ち受けていた。何かとは深い目の色をした男であった。
男の名は「彰」だった。