ドギーライフバケーション 

作:夢一輪




                       

                        (作品中の個人名および団体名は創作上のものです)


1.行楽地の駅にて



 午前9時少し過ぎに都内から乗車した特急列車は昼前には終着駅に着いた。肌寒さを感じるくらいに冷房

の効いた列車を降りるとむっとする熱気に包まれる。9月に入ったばかり、まだ残暑が厳しい。

先月までなら海水浴の客で賑わったであろうこの駅も人がまばら。列車の座席もガラガラだった。

大きな旅行バッグをさげてホームの階段を上りきり、改札へつながる連絡通路を歩き出したあたりから

じっとりと汗ばんできた。こんなときは男の人がうらやましい。暑ければ気軽にシャツ一枚になれるから。

女の私はそういうわけにはいかない。汗をかく季節はブラジャーには少々うっとうしい思いをさせられる。



 改札を抜けてから、列車待合室のイスに荷物を置き、Tシャツの上に冷房対策に羽織っていた薄いニット

のカーディガンを脱いだ。荷物の隣の席に腰を下ろして、折りたたんだ服を旅行バッグにしまいこんだとき

にふと思った。

若い女の気ままな一人旅??周りの人はそんな風に私を見ているのだろうか。

しかし、私は観光旅行をしに来たのではない。誰にも想像つかないことをするために、静かになった行楽地

にやって来たのだ。

私は大きめの旅行バッグに収納してある厚手の布袋に手を当て、ごつごつした感触を確かめた。

ゾクッとする妖しい高揚。この袋の中には秘密の計画のためになくてはならない物が入っている。

私を甘美に責めさいなみ、淫らなケモノにしてしまうマニアックな道具たち。

彼らが生き生きと輝くフィールドはもうすぐそこ。いよいよ今夜、私は抑圧されていた野性を解き放つ。



 一瞬の軽い興奮の後、私は待合室の壁に掛かっている時計でもうすぐ正午になることを知った。

昼食の前に別荘の管理会社に電話しておこう。ジーンズのベルトに取り付けてあるウェストポーチから携帯

電話を取り出した。4、5回の呼び出し音の後、相手が電話に出た。



「はい、さざなみ不動産でございます」

「あの、私、古関紀子と申します。父の古関智由から連絡が届いていると思いますが、管理していただいて

いる別荘の鍵の件で担当の方をお願いします」

「はい、どうもお世話になっております。古関様ですね。確認いたしますから少々お待ちください」



 私は管理会社の担当者と現地で落ち合う時間を確認してから電話を切った。

さて、別荘で不動産屋さんと会うにはまだ時間がある。ちょっとばかり食材を買出ししておこうか。

朝食くらいは自炊できるようにしておこうかな。

突然、グウ、とお腹がせつない鳴き声を上げた。そうか、とりあえずお昼を食べよう。駅前の適当なお店に

入ろうか。せっかく海の近くに来たんだからお魚がいいな。

私は待合室の一角にあるコインロッカーに、秘密を内包した旅行バッグを押し込んでから駅舎を出た。



2.変わった趣味



 大学の二年先輩の彼が卒業して就職した今年の春、二人の関係は終った。

別れた彼とのセックスはごくノーマルなものだったが、私は以前からSMプレイに興味を持っていた。

けれど、SMにさほど興味なさそうな彼には私のアブノーマルな一面を知られたくなかったので、普通の女

の子を演じていたのだ。普通のセックスに不満を持つべきではないとは思ったが、少々の歯がゆさを感じて

はいた。



 高校生のある時期からエッチな本やインターネットのアダルトサイトで官能小説を読むことが密かな趣味

となった。とりわけSM系の物語が好きになり、ストーリー上の被虐のヒロインを自分に重ねてみては未熟

な体をぽうっと熱くした。私が特にのめりこんだのは、野外で首輪を着けた全裸の女性が四つんばいで、傍

らの男にリードを引かれて犬のように歩かされたりするといったシチュエーション。

家の近所で、飼い主といっしょに嬉々として散歩する犬の姿を見かけて、全裸の自分が四つ足で歩く姿をイ

メージしてドキドキしてしまい、あさましい妄想癖に自己嫌悪を覚えたことが何度もある。



 大学三年生となり、ノーマルな彼氏と別れてから、それまで妄想の中に押さえ込んでいたメス犬願望が頭

をもたげ、私を具体的な行動へと駆り立てるようになった。でも、出会い系サイトなどでSMパートナーを

探すなんて怖くてとてもできない。そんな私がSMの世界ではセルフボンデージと呼ばれる自縛プレイに嵌

っていったのは不自然な流れではないと思う。



 ネット通販で注文した黒い革製の首輪、手枷、足枷が自宅に届いた日の深夜、それらを使って自らの手で

裸身を四肢拘束したときの興奮は忘れられない。鼻孔をくすぐる甘酸っぱい革の匂い、みだらにほてった体

が締めつけられる被虐感。ケモノの姿になって喜悦している異常性。

いっぺんに拘束具の魅力にとりつかれてしまった。



 私の奇妙な性癖はたちまちエスカレートしていき、更にリアルなメス犬拘束を求めるようになっていった。

膝を伸ばせないようにして人間としての歩行を不可能にしたり、手の指を封じ込めてしまったり、口を封印

して言葉を使えないようにしたり。そんなことを実現してくれる拘束具やアクセサリーをあちこちの通販サ

イトで探して買い揃えた。新しい道具は私に更なる快感をもたらした。

これから先ノーマルなセックスでは女の喜びを感じなくなるのでは、という恐怖が芽生えたが、自分で見つ

けた快楽にもっと溺れてみたい気持ちが上回った。



 こだわりの道具を揃えて私の自縛プレイは進化したのだが、どうしても満たされないものがあった。

それは、私が高校生のときから抱き続けてきた妄想??野外でのメス犬プレイ。

でもそれを現実化するには自宅周辺では絶対無理。夜中でも人通りがけっこうあるし危険すぎる。

私は一戸建ての家に両親と同居していて、普段のプレイは親が寝静まったのを見届けてから、自室のドアを

ロックしたうえで、なるべく物音をたてないように気をつけている。

これで我慢するしかないと思っていた。



 大学三年の今年の夏休みがもうすぐ終わる頃、突然名案が浮かんだ。

別荘があるじゃない。

東京から電車で二時間くらいで行ける、関東でも比較的温暖な海沿いの行楽地に父親が所有する別荘がある

のだ。そこには私の願望??野外プレイをかなえるための条件が申しぶんないくらいに揃っている。



「サークルの女の子たちといっしょに別荘を使いたいの。一泊だけでいいから」



 私は父にウソを言って許可をとりつけた。親をだましてまで自分の異常性欲を満たそうとする姿におぞまし

さを覚えつつ。やはり私は変だ。まともな女性ならこんなこと考えるわけない。たった一人で、寂しい場所

で夜をすごす恐怖よりも快楽への欲望が勝ってしまうなんて。

罪悪感とは裏腹にドキドキしながら私は一人旅の計画を練ったのだった。



3.別荘へ



 昼食と買出しを済ませた私は駅に戻り、コインロッカーの荷物を取り出してからタクシーに乗る。

車は、駅前から海に向かって真っ直ぐに伸びている、南国ムードを感じさせるヤシの並木道を少し走ってか

ら海沿いの広い道路に出た。車窓から快晴の空のもとでキラキラと光る海が見える。右手に広がる、移りゆ

く海岸の景色を眺めているうちにほどなく別荘の近くまで来たようだ。



「お客さん。この辺りですか?」

ぼんやりしていたら、運転手さんに声をかけられた。

「えっ、あ、はい。えっと、ちょっと先の山側にカーブした細い道を登ってください。その道を入ってすぐ

ですから」

運転手さんは無口な人なのか、それとも一人旅の若い女に気を使ったのか、行き先以外何も聞いてこなかっ

たので私としてはありがたかった。車を降りると、まつわりつくような潮の香りが漂ってきた。



 別荘には管理会社の担当者が既に来ていて、雨戸や窓を開放してくれていた。男性の担当者は私を見て、

「あれっ、お一人ですか? 確か四人様でご利用になるとうかがっておりましたが」

と意外そうな顔をした。

「ええ、他のメンバーは後から来ることになってるんです。みんなのスケジュールが合わなくて、私が先に

来て準備しておくことになったんです」

私はあらかじめ用意しておいたウソをついた。

担当者から別荘の鍵を手渡されたとき、Tシャツの胸元に中年男性の粘っこい視線を感じ、私は小首をかしげ

てそっぽを向いた。



 鍵の受取り手続きが済んで担当者が帰って行った後、別荘にただ一人となった私は、大汗をかいて蒲団干し

と掃除をしなければならなかった。ひと通りの作業が終わって、窓を閉めてクーラーの冷気で涼みながら、

深夜までどうすごすか考えた。

海岸の方へ散歩にでも行って、帰りにシーフードレストランで夕食をとろう。帰ってきたらシャワーを浴びて、

夜が更けるまで仮眠をとっておこうか。その後で……。



 海岸通りから少し奥まった小高い丘にぽつんと孤立しているカントリー風の建物は、不動産会社が別荘とし

て分譲したものではなく、もともと都会に住んでいた個人が田舎暮らしにあこがれて、永住の住まいとして建

築したものらしい。リビングルームの前には開放感あふれるウッドデッキが付いていて、庭の一角にはレンガ

で造られたバーベキュー用の小さな炉がある。敷地の周りは低いアルミフェンスで囲われていて、フェンスの

内側にさほど背の高くない植木がまばらに立っているだけなので海の眺望がとてもいい。事情があってその人

は夢の家を手放すことになり、その物件を私の父が5、6年前に購入したのだ。私は高校生の頃、この別荘で

何度か家族とすごしたことがあり、大学一年の夏にも女友達数人といっしょに泊まったことがある。

 

 私が思い描いてきた野外プレイをするには絶好のロケーションがその別荘には揃っている。

いちばん近い隣家は南側の敷地境界から少なくとも50メートル以上離れていて、しかも別荘が立っている丘

の下に位置している。こちらからは隣家の屋根を見下ろすことになり、視線を上げれば海が見えるといった具

合だ。だからお隣さんから恥しい姿を見られる心配はまずない。東側は草ぼうぼうの空地、西側は畑で、テニ

スコートを縦に二面並べたくらいの耕地にトウモロコシが植えられている。畑の先は針葉樹の森が広がる。

別荘の北側は車一台ぶん通れる道が森に続いているが、昼間ならともかく夜間なら人通りは心配ない。だいい

ち別荘から先は舗装もされてなく、昼間だって畑仕事をする人がたまに通るくらいだろう。その道を挟んで別

荘の裏手は雑木林になっている。

夜になれば、どんな格好をしても屋外に出られるのだ。

 

4.プレイ



 シャワーを浴びた後、寝間着用に持ってきていた薄地の浴衣を素肌に羽織った。キッチンの冷蔵庫からよく

冷えたミニサイズの缶ビールを取り出す。ひと息ついた後、寝室に入った。携帯電話のアラームを午後11時

半にセットして枕元に置く。疲れていたせいか、少量のアルコールが効いてすぐに眠くなってきた。



 仮眠から目覚めた私は、旅行バッグから厚手の布袋をひっぱり出し、それをリビングルームの床に無造作に

置いた。袋から15センチほどのディルドを取り出し、浴衣の懐に入れる。左手で浴衣の上から懐を押さえ、

サンダルをつっかけて玄関を出た。

別荘の周囲をきょろきょろしながら歩き回る。人の気配は無くひっそりしている。裏手の雑木林の方からちょ

っと不気味な、野鳥の鳴き声が聞こえてくるばかり。庭に立って、海の方向を見回しても民家やその他の建物

の明かりもまばらで、海岸沿いの道路を走り去ってゆく一台の車のヘッドライトが見えたが、後続はすぐにこ

ないようだ。



 私は別荘の方を振り返り、リビングの前に設置されたウッドデッキの先端、隅の所まで行き、浴衣の懐から

ディルドを取り出した。ディルドの根元にはあらかじめ紐を結んである。それをウッドデッキの手すり柱、地

面から40センチくらいの高さの所に紐で巻きつけて固定した。

木製の柱に生えた樹脂製のペニスが、海の方向に突き出した格好になった。



 人目のないことを確認した私は、妖しく胸を高鳴らせながら屋内に戻った。

布袋の中の物を、リビングのフローリングの床に並べた。

旅行バッグに無理なく詰込めるだけ持ってきた、厳選されたアイテム。

人間を無抵抗な四つ足のケモノに変えてしまう拘束具と恥具の数々。

首輪、胸を引き締めるハーネス、腰ベルト、足枷、グローブ型の手枷、口枷、尻尾……。

それぞれの拘束具には要所に金属のリングが複数取り付けられていて、鎖を使って別々の拘束具どうしを連結

できるようになっている。



 私は浴衣を脱ぎ捨て全裸になり、床にお尻をペタリと着けた。フローリングの涼しさが気持いい。

ウットリとして床に並ぶコレクションを見つめる。黒い革がヌメヌメとした光沢を放ち、銀色の金属が妖しく

きらめく。

数種の拘束具の中から、まず首輪を嵌めた。屈辱感が湧き上がってきてマゾの血が騒ぎ出す。

次に胸用のハーネスを手にする。カップ部の無いブラジャーのような革ベルトを取り付けると、ベルトからは

み出したおっぱいがいやらしく誇張された。自虐の気分がさらに盛り上がる。



 リングが数ヶ所に付いた腰ベルトを装着し、膝を曲げて両足の足首に枷を嵌める。腰ベルトの左右のリング

と足枷のリングを鎖と留め具でカチッとつなぐと、膝を伸ばして立ち上がることができなくなった。

ゾクゾクしながら、今度は口に戒めを施す。



 リングギャグを咥え、首の後にまわした調整式ストラップを引っぱってガッチリ固定した。

「はがっ、」

上歯と下歯の内側にリングが密着し、口の中につっかえ棒をかまされた感じになる。これで言葉が封じられ、

しかも口が丸く開きっぱなしになった。

「はあ、ふおう」

舌を出して荒く息を吐いてみる。頭がおかしくなってきたみたい。妄想の中にSの私がいて、現実世界にMの

私がいる。妄想と現実、SとMの間を意識が行ったり来たり。



 Sの私がMの私にさらに淫らな命令を下す。

すでにツンと勃起している乳首を指でつまんでコリコリと弄んでからニップルチェーンのクリップで摘み、チェ

ーンを引っぱり気味にしてリングギャグの口許のストラップに穿たれた穴に留め具で取り付けた。そしてわざと

顎を上げ、首を振って意地悪してみる。

「あん」

乳首がチェーンに吊り上げられ、鋭い痛みがひろがり、おっぱいがプルプル震えた。



 ヨダレが唇を伝って流れ出てきた。

少し冷静さを取り戻した。いけない、いつまでも部屋で楽しんではいられない。野外プレイがメインなのだから。



 逸る気持ちを抑えて、ケモノの象徴と言える尻尾を埋め込む準備を始める。

四つんばいになって足を開き、ふさふさした尻尾が付いたアナルプラグを右手に取り、左手で体を支えて、プラ

グを股間にあてがった。もうとっくに熱いオツユを吐き出している貝の口にプラグの先端を軽く押し付け、やわ

やわとこねくりまわしてオツユを塗りつける。

「ん、……」

そのまま貝肉を割って押し込んでみたい衝動をこらえて、矛先をヒクヒクと蠢くお尻の穴にあてがった。

円錐形の先端部分だけ入れてみて様子を見る。

やっぱり、ちょっときついみたい。無理しないでアレを使おう。

いったんアナルプラグを引き抜き、布袋の中に一つだけ残したアイテム、催淫ローションの小ビンを取り出した。

そして、垂直に立てたプラグの先端にネットリと垂らす。再びプラグをあてがい、ゆるゆると動かして受け入れ

態勢を整える。一瞬のためらいの後、右手に力を込めた。



 ヌププ、ズプリ。

「うっ……っ」

四つんばいの体がわななく。デリケートな器官を異物で蹂躙する背徳感がたまらない。

腸壁から吸収された催淫成分がじわじわ効果を発揮し、違和感がみるみるうちに快感に変っていく。



 淫靡な掻痒感をこらえつつ、いよいよ手の自由を封じる。

指を折りたたんだ状態の右手にグローブ型手枷をすっぽりとかぶせる。グローブは丸い革袋で、中で握った手に

ぴったりとフィットしているので指を開くことはできない。グローブの手首部分に付いた調整ストラップを左手

で引っぱって固定する。左手用のグローブの調整ストラップはあらかじめゆるい状態で留めてある。床に置いた

左手用のグローブを右手で上から押さえておいて、左手をグローブに押し込んだ。これで両手の指を封じること

ができた。左手の方は、グローブの手首の固定具合がゆるいので、プレイが終ったあと、引き抜くことができる。

何かの間違いで左手のグローブががっちり固定されてしまったら、自力で変態拘束を解くことが不可能になって

しまう。

「ハア、ハア」

発情したメス犬がヨダレを垂れ流しながら息を荒げている。

 

5.外へ



 四つ足のケモノになった私はリビングの掃き出し窓に、今や前脚と化した両手のグローブを押し当てて、ガラ

ス戸を横にずらして開けた。四つんばいでウッドデッキに歩み出て、そこでいったん止まり、空を仰いでみた。

乳首に甘い刺激を感じ、ニップルチェーンが口元のストラップに連結されていることを思い出した。

月がぼんやりと浮かんでいる。風は無く、空気は生ぬるい。



 ゆっくりとお尻を振って尻尾を揺らしてみた。アナルプラグの根元から垂れたふさふさがお尻や太腿をいやら

しくなでていく。念願の野外プレイができる喜びを実感する。本物の犬が、飼い主に散歩に連れて行ってもらう

ときの喜び方を想像して、自分も激しく尻尾を振ってみようとした。



 あ、いやん。

アナルプラグがせりあがってきた。あわてて上体をのけぞらせ、足を折りたたんでお尻をウッドデッキの床に押

しつける。

「うあぅ」

背徳の快楽源を深々と突き上げられ、一瞬頭の中が真っ白になったが、やがてジーンと異様な痺れがそこから広

がりだした。たまらず私はプラグの根元の細くなっている部分を食いしめたりゆるめたりを繰返してしまう。

もっとお尻を虐めてみたくなり、円を描くようにお尻をデッキの床にすりつけてみたり、浮かしたり沈めたり……。

ああ、い、いいィ。



 お尻で軽いアクメを迎えてしまった私は、しばらく尻餅をついたままぼうっとしていた。

リングギャグから糸を引いて垂れるヨダレと、股間から溢れるおツユで、お尻の下の床板がべしょべしょになっ

ている。

「ふー、はー」

深呼吸した私はのろのろと四つ足で歩き出し、ウッドデッキの先端中央部に取り付けてある小さなステップを慎

重に下りて、あちこちに雑草が生えている庭土の上に出た。



 素肌はじっとりと汗ばみ、ヨダレや淫液とともに、体中が自分の分泌物にまみれている。ほてりまくる体で庭

を歩いてみた。膝にあたる土や雑草の感触を確かめる。フローリングやデッキの硬い床よりも心地よい。

ふと、庭の一角にあるバーベキュー用の小さな炉に目が留まった。高さ60センチくらいの、レンガ積みの立方

形の炉に近づき側面の隅の部分??地面から垂直に立ち上がっている一辺をじっと見つめた。

私は炉にお尻を向けて、角になっているところを狙って後ずさりした。肘を曲げ、お尻を突き上げた格好で、

アナルプラグを食いしめている部分のすぐ下で口をあけている割れ目に、レンガの角が食い込むように、押し付

けてみた。

熱くなっている体の中心部に、レンガのひんやりとした涼しさが伝わってきて、いい気持。レンガのザラついた

角に貝柱が押しつぶされているイメージを思い浮かべた。



 わずかの休憩の後、ぎごちない歩みでウッドデッキのところまで戻った。あらかじめ、デッキ隅の手すり柱の

ちょうどいい高さに取り付けておいたディルドに頬ずりしてから、リングギャグから舌を出して鼻を鳴らしてな

めまわしていく。

「んー、んふー」

もはやサカリのついたメス犬そのものの私は、もういてもたってもいられなくなり、体の向きを反転させてお尻

をディルドに向ける。膝を後退させ、お尻をそおっと押し付けてみるとアナルプラグの根元にディルドが触れた。

お尻をわずかに突き上げ気味にして位置をずらし、尻尾のふさふさが邪魔するのもかまわず再び押していくと

ディルドの先端部、カリを咥えることができた。

そろそろと挿入していき、スムーズにピストンできることを確認した私は、始めは小さく、だんだん大きな

ストロークで体を前後させていく。

「あおー、おおぅ……」

狂ったメスが咆哮する。おっぱいをタプタプさせて腰を振り続ける。顎が上がり、口許から伸びるニップルチェー

ンが乳首を意地悪く吊り上げても、それはもうすでに痛みではなく妖しい快感。

湧き上がってくる大波小波に体をのたうたせているうちに、とうとう来た。

いく、いっちゃう。

上下の歯でギリギリとリングギャグを噛みしめた。

「……」



 ケダモノじみた絶頂に上りつめた私は、ディルドを含んだまま上体を突っ伏していた。

呆けた意識が徐々に戻り、肘を伸ばして上体を起こしてみた。ニップルチェーンに引き伸ばされた乳首に目をや

ると、汗で濡れたおっぱいに泥がついていた。

ゆっくりとディルドから体を引き抜き、私は四肢拘束のまま、よたよたと歩きだした。庭を横切り別荘の裏側に

まわって、アルミフェンスの門扉にたどりついた。この先は敷地の外だ。粗末な外灯がまばらに立つ、暗くて狭

い道路が東西に伸びている。東は海岸通りにつながり、西は別荘裏側からトウモロコシ畑やその先の森へ続いて

いる。



 私は門扉の前でいったん止まり、少しの間迷っていたが、意を決して道路に出ることにした。

横一文字の形をした取っ手に右手のグローブを掛けて、取っ手を押し下げてから手前に引くと、軽いアルミ扉が

かすかに「キィー」と、きしむ音をたてて開いた。

誰にも見られるはずはない、と思いながらも心臓の鼓動が早くなる。好奇心と怯えが行ったり来たり。

門扉から道路に、そおっと首だけ出して様子を窺う。だいじょうぶ、やっぱり誰もいない。

正面の雑木林から、「ホゥ」、「ホゥ」という不気味な音が聞こえてきて一瞬ドキリとしたが、すぐに野鳥の鳴

き声と気づき、安堵のため息をついた。

思い切って全身を門扉の外に出した。とうとう素っ裸の私が変態拘束を身にまとい、四つんばいで道路を歩くのだ。

何というスリル! じんじんと興奮が湧き上がってくる。ああ、夢にまで見た瞬間。

私は狂っているのか。きっとそうだろう。でも、マゾってすてき!



 古ぼけた外灯が弱々しく照らす夜道を、トウモロコシ畑や森の方に向って歩き出した。

道路を歩き出してすぐに舗装が途切れ、よく踏み固められた砂利道が目の前に現れた。膝が痛い。さすがに庭土の

上を歩くようにはいかない。

私はちょっと休もうと思い、砂利道に踏み出す前にコンクリートの上に体を横たえてみた。

意外なことに、ホカホカとしたぬくもりを素肌に感じて驚いた。昼間、熱を貯めこんだコンクリートが深夜になっ

ても冷めていないのだろうか。思わぬ心地よさにしばらくそのままじっとしていた。



 膝の痛みがおさまると私は四つんばいに戻って、細かい砂利がパラパラと転がっている道を歩き出した。膝を地

面につけないよう浮かし気味にして、トウモロコシ畑の脇を進んで行くとほどなく畑の先端近くに到達した。畑の

先端は道が行き止まりで、車が切り返してUターンするためのスペースが畑の反対側に設けてある。道より先は真

っ暗な森が静まり返っている。



 ふと私は、あるインターネットのアダルトサイトを思い出した。そのサイトは、裸の女性を犬のように扱うこと

を主旨とする奇妙なホームページで、そこには“女犬”と称されるマゾ女性がたくさん登場する。私がパソコンの

お気に入りに登録してあるサイトの一つだ。

そこではサディストの男性に首輪のリードを引かれて歩かされたり、様々な調教を受けたりといったSMプレイの

数々の写真が掲載されている。しかもほとんどが、個人的なSM愛好者からの投稿写真だ。

そのホームページの女犬のように、私もいつか男性パートナーとプレイするようになるのかもしれない。

でも今はセルフボンデージのメス犬プレイに狂喜している自分が愚かしくも愛おしい。



 ほんのひと時の理性がまた煩悩に支配されだした。

妄想の中のサディストが私に恥しいポーズを要求する。私は腰を屈めて上体を起こし、グローブを嵌めた左右の手

の甲が肩につくくらいに引き寄せた。そしてアナルプラグの根元を食いしめ、ちんちんスタイルで尻尾を振ってみ

た。みじめな自分に興奮し、プルプルと身震いする。

「?」

何かが頬をやさしく撫でた。



 それはふんわりと垂れた、トウモロコシの房ヒゲだった。

そのとき、自分でもあきれるほど野蛮なことを思いついてしまった。だめ、そんなイケナイこと、と否定するが

心臓が妖しくときめいてしまい、欲情の炎が勢いを増すばかり。

 

 私は右手のグローブで左手のそれを押さえ、左手を引き抜いた。指が自由になった左手で右手のグローブの固定

ストラップをゆるめた。自由になった両手でトウモロコシのひと房をもぎり取って、ぞくぞくしながら一枚ずつ

外皮をむいた。

左手で股間をまさぐる。熱いオツユが指にまつわりつく。トロトロにとろけているその部分に、右手に持ったトウ

モロコシの実の先端をあてがい、そおっと……。

ふ、太い。すぐには無理みたい。

先端だけ挿入した状態でトウモロコシをねじってみる。つぶつぶが柔肉のヒダをこする。

ああん、こんなの初めて。

「はあ、はあ、はふぅ」

息が荒くなってきた。リングギャグからこぼれるヨダレの糸が太くなる。も、もう我慢できない。

私は左手を砂利道につき、お尻を上げて四つんばいの姿勢に戻った。そして体の下から股間に伸ばしたままの右手

に力を徐々に加えていく。半分くらい入れたところで、ゆっくりと押したり引いたり。

子宮がわななき、もっともっと、と、はしたなく駄々をこねる。体の芯から突き上げてくる快感。

ディルドよりも硬くて太い野菜を夢中でむさぼっているうちに、アクメが近づいてきた。い、いきそう。

「おあ、ん、んん」「んあ、んンンン」

罰当たりな絶頂を迎えてしまった。



6.アクシデント



 陶酔の余韻がやんで意識を取り戻した私は、もうこれでじゅうぶん満足だと思った。その場で拘束を解こうか、

それともこのまま別荘に戻ろうか、と考えはじめたそのとき、車の走る音が聞こえてきた。

えっ、こんな夜更けに誰?

音がどんどん大きくなってきて、私の心臓が早鐘を打ち始めた。やっぱり車だ。こっちに来る!早くどこかへ隠れ

なきゃ。

オタオタしているうちにヘッドライトの非情な光芒が……・。

大慌てでトウモロコシ畑に飛び込んだ。バサバサと音をたてて茎をなぎ倒し、私の体は倒れた数本のトウモロコシ

の上にはいつくばるような格好になった。

 

 私はあせり、すぐに立ち上がろうとしたが、バランスを崩して横倒しに転がってしまった。腰ベルトと足首の枷

が鎖で連結されていて、膝を伸ばせなくなっていることを忘れていたのだ。

あたふたと体を起こし、四つんばいの姿勢に戻ったとき、背後の砂利道を小さな地響きが通りすぎてゆき、ほどな

く地響きは止み、エンジンの音が消えた。



 見られてしまった!?

バタン、バタン、と車のドアが開閉された音がした。足音が近づいてくる。

ああ、どうしよう。こんな格好で見つかったら私はもうお終いだ。何をされても抵抗のしようがないし、だいいち

逃げようがない。

リングギャグを噛んだ口が恐怖で小刻みに左右に震える。

お願い、こっちに来ないで。神様助けて。

そのとき、



「おい、ケンジ。そんなもんほっとけよ」

男の押し殺すような声が聞こえてきた。

「いやあ、カネダさん。オレ、ほんとに今ヘンなもん見たんすよ」

私から近いところで違う男の甲高い声。

「バカ。もっと小さい声で話せ。俺もなんか見たような気がするけどよ。野良犬じゃねえか」

「ワン公かなあ。ん〜、ワンコとは違うような気がすんだけどなー」

「いいから、早いとこ片付けてとっとと引き上げようぜ」

「ういっす、それもそうっすね」

近づいていた足音がいったん止み、こんどは遠ざかる。



 えっ、野良犬? ワン公? あっ、そうか。見られちゃったみたいだけど、あの人たち、まさか人間だなんて思

ってないんだ。ああ、助かった。

私は力がぬけて、その場にへたりこんでしまいたかったが、そこにいては危険だと思った。

畑の中は外灯の明かりも月明かりもほとんど届かない暗闇だが、トウモロコシが等間隔で列をなして植えられてい

たので、列に沿って進めば畑の奥の方まで行って身を隠せると思った。

私は腰ベルトと足枷をつないでいる鎖を思い出し、暗がりの中を手探りで足枷側の留め金を外した。

しかし、そこで立ち上がるわけにはいかないので、四つんばいのままトウモロコシの茎と茎の間をひっそりと、

慎重に畑の奥めざして歩きだした。

まるで、猟師から姿をくらまそうとする獣のように。



 トウモロコシの林の中をビクビクしながら手と膝を泥まみれにして歩きだすとほどなく、バサッ、バサッ、

という音が森の方から聞こえてきた。

何だろう? さっきの人たちが何かしてるみたいだけど。いったい何をしてるんだろう。

私は、畑のいちばん奥の方まで行くつもりでいたが、彼らが何をしているのか気になってしまい、胸騒ぎを覚えた。

彼らは先ほどヘッドライトの明かりに映った生き物を本物の犬だと思っている。だいじょうぶだろう。

そっとのぞいて見てみようか。



 好奇心にかられて、音のする方向へドキドキしながら移動してみた。畑が途切れるところで、トウモロコシの

根元から息をひそめて様子を窺う。すると、砂利道の行き止まりで森のすぐ手前に、トラックが荷台を森の方へ

向けて停まっているのが見えた。男が荷台の上にいる。荷台の脇にも別の男がいる。荷台の上にいる方はそんな

に大きな体ではないが、荷台の脇にいる方は大男だ。

その場所は外灯の明かりもあまり届かない所なのでよく見えないが、荷台上の男が何か大きな物を荷台脇の大男に

手渡している。大男は何かを受け取ると数歩、森に近づいてから勢いをつけて何かを森の中に放り込んだ。

バサッと音がした。



 森に何かを捨てているみたい。何だろう?

私は恐ろしいことを思いついてしまい、はっと息を飲んだ。

もしや、殺人犯が死体を森に捨てているのでは!

いつかテレビのニュースで見た女子大生バラバラ殺害事件を思い出した。その被害者は、切断された死体を森の中

に遺棄されたのだ。

 ゾッとして思わず身をすくめた。もしも本当にあの人たちが殺人犯だとしたら。そして私がこの場で彼らに見つ

かってしまったら、犯されるどころか、もっと大変なことになってしまう。

「んぐッ」

リングギャグで閉じることのできない口の奥で唾液がむせた。

あわてて体を引っ込め、ギャグを外そうとして両手を上げたひょうしにトウモロコシの茎に手があたり、ファサッ、

と音をたてて葉っぱを揺らしてしまった。

「あ、いけない!」

気づかれてしまったか、と思ったが恐る恐る男たちの方へ目をやると、彼らは何事もなかったような様子だ。

私はギャグを外すのはやめて、そのまま息を殺して様子を窺った。



 大男がまた、荷台にいるもう一人の男から平べったくて幅の広い何かを受け取っている。

死体とは違うみたい。いったい何なの?

じっと目をこらす。長方形をした何物かを両手を広げて受け取った大男は、また森に放り投げる。

バサッと音がする。そして、荷台の男からまた同じ形の物を受け取っている。荷台の男が低い声を出した。



「ケンジ、畳はこれで最後だ」

ケンジと呼ばれた大男は、

「ういっす。あとは襖とか細かい材木ですよね」

と、応えた。



 あの四角くて平べったい物は畳だったのか。畳を森に捨ててるんだ。あとフスマとザイモクって言ってたけど……。

あ、そうか。わかった!

私は“不法投棄”という言葉を思い出した。

産業廃棄物を山や川に捨ててしまう違法行為が社会問題になっている、というニュースをテレビで見たことがある。

あの男たちは産廃ゴミを森に捨てに来たんだ。だからこんな真夜中に、こんなところにやって来たんだ。

殺人犯じゃなくてよかった。

 

 私は一瞬ホっとしたが、すぐに思い直した。

でも、私が見つかったらただじゃすまないことに変りはない。悪いことをする人たちだし、見つかったら犯されて、

どこかへ連れて行かれて……。

彼らが作業を終えて立ち去るまで、畑の奥で隠れていなければ。

私はそっと体の向きを変え、トウモロコシ畑の中を、奥の方めざして静かに歩き出した。



 ほどなく、バタン、バタンと車のドアが閉まる音がした。

思いのほか早く作業が終ったようだ。私はまだそれほど畑の奥まで逃げ込んでなかったが、彼らがこのまま引きあげ

ていくに違いないと思い、歩みを止めてじっと耳をすませた。

エンジンがかかる音がし、地響きが伝わってきて、トラックが走り出したことがわかった。

やっぱりゴミを捨て終わったんだ。ああ、よかった。これで無事に別荘まで帰れる。

と思ったのもつかの間、地響きはすぐにやんだ。いったん走り出したトラックがすぐに停止したようだ。エンジンの

音が小さくなる。

えっ、どうしたの? 何で停まっちゃったの!



 再びドアの開閉音がした。男たちがトラックから降り立ったようだ。彼らの会話が聞こえてきた。

「カネダさん。これ見てくださいよ。これ」

「なんだ。んー、ボクシングのグローブみてえだな」

「ボクシングのグローブはこんなに小さくねえっすよ。それに形もぜんぜん違うし」

 

 私は、体を硬くした。そうだ、ヘッドライトの光に照らされたとき、あわてて畑に飛び込んでグローブを道に置い

たままにしちゃったんだ。

どうしよう。SMプレイ用のグローブ手枷だなんてばれたら。お願い、このまますぐ引きあげて!



男たちの会話が続く。

「ケンジ、おめえ、カラテやってたよな」

「ええ、まだ始めたばかりっすけど」

「カラテ用のグローブでこんなのねえか」

「いやあ、寸止め無しの試合で使う空手グローブは何種類か知ってますけど、こんな丸い袋みたいなやつ有ったかなあ」

「……」

「そうだ。明日、道場に持ってって師範に聞いてみますよ。それよりカネダさん」

「なんだ?」

「うまそうなトウモロコシがいっぱいありますよ。5、6本失敬していきませんか?」

「すぐにすませろよ。こんなところでパトロールに見つかったら逃げようがねえんだからな」

「ういっす。あれ、皮むいたやつが一本落ちてんな。誰かここで生のまんま食おうとしたのかな?」

「まさか。んなわけねえだろ。そんなことどうでもいいから早くしろよ」



 ガサ、ガサと音がする。ケンジと呼ばれた男がトウモロコシの房をもぎり取っているようだ。

お願いだからこっちにはこないで。



「カネダさん。ここらへん、トウモロコシが何本も倒れてますよ。なんでこの辺だけ倒れてんだ? ん、畑の中に

なんかいるのかな」



ザワザワと音をたてて、畑に踏み込んできた。こ、こっちに来る! いやあ、こないでぇ。

ガタガタと体が震え、逃げようとしても膝が凍りついて言うことを聞かない。もうだめ。

そのとき、カネダとおぼしき男のガナリ声がした。



「おーい、ケンジー。いいかげんにしねえかバカヤロウ。どうせさっき見た野良犬かなんかが畑に飛び込んだんだろう。

トウモロコシなんかもういいから、さっさとトラックに乗れよ。ずらかるぞ」

「す、すいません。今すぐ行きますから」



 足音が遠のき、ほどなくトラックが地響きをたてて走っていった。

今度こそ本当に助かった。そう思った私はへなへなとその場にへたりこんでしまった。

お尻の下があたたかい。

一気に緊張が解けて、オシッコを洩らしてしまったのだ。



7.反省のあと



 トラックの音が完全に消え去ってから、私はトウモロコシ畑から砂利道に出た。

外灯の薄明かりの下でリングギャグを外す。

「かはっ、かはっ」

口をパクパクさせる。咽喉の奥でむせたものを飲み込んだ。

いつの間にか、ギャグのストラップに連結していたニップルチェーンのクリップが乳首から外れていた。手に持った

ストラップからチェーンがプラプラ垂れ下がっている。

足が痺れている。長時間膝を曲げっぱなしだったので、すぐには立ち上がれない。砂利道に腰を下ろし、足を伸ばし

てひと休みすることにした。



 もしもあの人たちに発見されていたら、

と思うと恐ろしさに悪寒が走り、両手でおっぱいを押さえてガクガク身を震わせた。

 

 もう二度とこんな危ないことはしない。女ひとりで野外プレイなんてやっぱり無理なんだ。

明日は朝のうちに別荘を片付けて、なるべく早く帰宅しよう。

やがて私は、ふらふらと二本の足で立ち上がり、おぼつかない足取りで夜道を歩き出した。

 

 別荘に戻った私は、泥だらけの体から外した拘束具や尻尾を脱衣所の床にドサドサと落とし、シャワーを浴びた。

それ以上何をする気力もなく、ショーツも着けずに浴衣だけ羽織って布団にもぐりこんだ。

たった一日でずいぶん色々な事が起きた。記憶が記憶を呼び、トウモロコシ畑での戦慄がぶり返して布団の中で震

えた。とても眠れそうにないと思ったが、よほど疲れていたのだろう、やがて意識が薄れていった。



 目が覚めて、枕元に置いた携帯電話の時刻表示を見ると午前9時を少し過ぎていた。

昨晩布団に入った時刻を覚えていない。どのくらい眠ったのだろう。

だるくて体を動かすのがおっくうだ。うつらうつらしているうちに昨晩の記憶がよみがえってきた。

あっ、ディルドをしまい忘れた。



 私はリビングルームに行き、手にしていた携帯電話をソファの上に無造作に置いた。そして浴衣姿のまま掃き出し

窓からウッドデッキに出て、前の晩から手すりの柱に縛り付けたままのディルドのヒモをほどく。

両足首がうずくような痛みを訴えている。見ると足枷の跡がくっきりと赤らんでいて擦り傷ができていた。



 風が吹いてきた。私はウッドデッキの手すりに寄りかかり、風が吹いてくる方に目を向ける。

海岸からさほど遠くない沖で、釣り船が波にゆったりと上下しているのが見えた。

はだけた浴衣のすき間にやわらかな風が入りこんできて、愛撫されているみたいで気持いい。

やがて景色が目に入らなくなり、私はみだらな妄想にとらわれはじめた。



 私は屈強な肉体労働者の男ふたりに露骨な言葉を浴びせられ、前後から犯されている。

後ろの男に激しく突きこまれながら喜悦の涙を流し、前の男の逞しくそそりたつペニスを夢中でしゃぶり続ける。

何度もイカされながら、お尻を振っておねだりする。



 違う場面が現れた。

私は男に首輪のリードを引かれて四つんばいで道を歩いている。私は途中で歩みを止め、顔を上げて男に目で訴える。

男は傍らの電柱を顎で示す。

私は電柱に近寄り、片足を上げて……。



 我に返った私は、リビングに戻り、ほてった体をソファに沈めた。

手もとの携帯電話を取り上げて短縮ダイヤルのボタンを押す。

4、5回の呼び出し音の後、相手が電話に出た。



「はい、さざなみ不動産でございます」

「あの、古関ですが。昨日から別荘に来ている古関紀子ですが」

「ああ、どうも、お世話になっております。確か今日はもうお帰りになるんでしたね。何時ごろ鍵をお預かりにうか

がいましょうか?」



「あのう。実はもう一泊していきたいんですが……」



 電話を切った私はもう一度ウッドデッキに出て、何を見るともなく、湿り気を帯びた潮の香りに包まれていた。

                        

                          終



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