7 約束の日が来ました。いつも放課後にはすぐに部室へ駆け戻らなければいけないのですが、今日だけはその前に秋山さんに本を渡そうと思って、小走りに校庭を横切っていた時です。
「おい、フンドシカツギ。江美子!どこへ行く?」
運悪く相撲部の上級生たちに声をかけられました。
「ハイ。お友達に本を渡しに行くところです」
「お友達?それはもしかして男じやないだろうね」
「ハ、ハィ。いいえ。それは…・」
「何、男だな。はっきり言え」
竹刀を手にしていた沢野という先輩が近奇ってきました。彼女はいつも陰湿なイジメを考え出すので、新入生達から特に恐れられているのです。
「ハイ。男のお友達です。でもただのお友達です」
「これは驚いた。褌かつぎが部活をスッポカして男とデートしようとしているよ。皆どうしようかね」
「それは間きずてならないね」
他の先輩逮もニヤニヤ笑いながら私をとり囲んできます。
「いいえ、デートではありません。ただ本を図書館に返してくるだけです」
「図書館だって?今、男と会うと言ったぱかりだろう?」
「あの、一緒に返しに行く約束なのです。その方が次に借りる事になっているのです。すぐにすみますから、一寸だけ行かせてください」
「ヨオ、沢野よ。お嬢ちやんがお約束だそうだから行かせてあげなよ」
他の先輩が声をかけてくれたので私は助かったと思いました。
「それもそうだね。お嬢ちやんは私達プスと違って可愛子ちやんだから、ボーイフレンドだって欲しくなるよね。でも授業が終ったのにまだセーラー服を着ているのは、相撲部の規則に違反しているんじやないのかい?」
意地悪な沢野先輩が素直に許してくれるはずがなかったのです。
「お願いです。すぐに帰って来ますから、それまで待ってください」
私は必死で哀願したのですが、とてもきいてはもらえません。沢野先輩の言葉でイジメの方行が決まると、他の先輩たちも乗って来ます。
「だめだね。規則は規則だからね。さあ、今すぐここで裸になるんだよ。制服は私達が持っていてあげるから。褌はちやんと締めているんだろうね」
スカートの下にはいつもの手拭い褌をしています。私はとうとうその場でセーラー服を脱ぎ、褌一本の姿にされてしまいました。遠くにいた男子生徒達も、面白い事が始まるぞ、とぱかりはぞろぞろ集まって来ます。
「さあ、私達も一緒について行ってあげよう。その色男はどこで待っているんだい。先輩に制服を持たせているんだ。あまり待たせちやいけないよ」
ああ、何という事でしょう。私はついに、細い前立褌の両脇から恥毛を覗かせたあの、いやらしい褌姿で秋山さんの前に立つ羽目になってしまいました。
後から来る沢野先輩に、竹刀でビツャビシャとお尻を打たれて追いたてられながら、私達は裏庭までやってきました。野次馬の男子生徒達もくすくす笑いながらついて来ます。
「うちの褌かつぎはこんな所で乳くり合っていたのかい?蝉をやるのに丁度良い樹があるねえ。ほら江美子、あの木に登って蝉をやってみるかい?」
先輩の指差す木の下には秋山さんが、近づいてくる異様な集団を見て立ちすくんでいました。私は手にした本を差し出しながらヨロヨロと近づいて行きます。
「秋山さん。ご本お渡しします。後で図書館に返しておいてください」
それだけ言うのがやっとでした。唖然として立っている秋山さんを後にし、顔を手でおおい、私はその場から逃げ出しました。涙が指の間から次々あふれ出します。
後から、先輩たちが囃し立てる声がワーッと聞こえていました。
8 やがて一週間の期末テストがありましたが、私は悲しくて悲しくてほとんど上の空で過しました。幸いにも秋山さんとは顔を合せる機会はありませんでした。試験が終ると、今学期最後の稽古があります。これで待ちに待った一年間が終わり、私と百合子さんは、新入り奴隷部員の身分から解放されるのです。やっと退部を認められ、その後は又、新しいお嬢さん一年生が私達と同じように悲しい奴隷部員に仕立てられていくのです。
その日も私と百合子さんは褌をはずされて、土俵のそばで全裸晒しの刑を受けておりました。今日は特に、今学期最後の稽古だというので、いつもに倍する見学者が集まっています。先輩達の荒々しいぷつかり合いが終ると、いよいよ私達への最後のシゴキが始まります。いつも色々と恥ずかしい責め方を考え出す沢野先輩が、今日は見えないので一寸安心しました。
私と百合子さんは、いつものように土俵に犬這いし、お尻を高くかかげて〃お尻打ち〃を受けながら、声をそろえて「蛍の光」を歌わされておりました。最後の小節を歌いながら、ふと顔を上げると入ロに立っている見物人の中に秋山さんの姿をみつけたのです。
秋山さんは周囲を沢野先輩達にかこまれて青い顔をして立っています。鬼のような沢野先輩は、あの時だけでは足りずに、最後のシゴキを秋山さんに見せ、私の恥ずかしがる様子をみて楽しもうとして、無理矢理連行して来たのでしょう。
秋山さんがもがいていますが、大きな先輩が二人両側から押さえ付けているのでどうにもならないようです。座敷で見物していた他の先輩が、気がついて声をかけます。
「どうした江美子。大好きなお客様が来ているじやないか。せいぜい、お尻を振って、いい声で歌うんだよ。後で色男が可愛がってくれるかもしれないよ」
私は情なくて、本当においおい声をあげて泣いてしまいました。その様子を見て、まわりの見学の皆さんは、いっそう喜んで、
「次は校歌を歌わせよう」
などとリクエストをするのです。私達は、秋山さんが先輩達に連れ去られた後も両手と両足で鉄砲柱によじ登り、無様な猿のように股を開いてしがみつきながら、
「桃陰学園ばんざい、桃陰学園ばんざい」
と叫んだり、二人で後ろ向きに仕切ってそのまま両側から、全速力で四つん這いでバックしてきて、中央でお尻をぷつけ合う「尻つっばり」という珍妙なぷつかり稽古までやらされました。
すぺて終って、最後の掃除が済むと終業式があるのですが、私はすぐに寄宿合の荷物をまとめ一散に学校を後にしました。もうこの校門を二度とくぐる気はありませんでした。遠くから秋山さんの呼ぶ声が聞こえたような気がしましたが、決して後を振り返ったりはしませんでした。
9 二年生から私は、父母が住んでいたアメリカの都市に移住し、そこのハイスクールに転入しました。以前の学校の人たちとは一切連絡をとらなかったので、その後の事は何もわかりませんでした。
私は平凡な女学生として、その地で大学を卒業し、日本の総合商社のアメリカ支店に現地採用されました。一年後に本社に転属されて久しぶりに東京に戻って来ましたが、その本社ピルで、まったく偶然に、ここに入社していた秋山さんと再会したのです。
ちょうど営業部の部屋の前を通りかかった時、書類を手にした背広姿の長身の人がドアから出てきて、あやうくぶつかりそうになりました。私達は一目でお互いを認め合いました。
十年近い歳月は一瞬に消え去り、二人は社の廊下に棒立ちになりました。しかし私はその時、学校の裏庭の木の下に立った秋山さんを思い出し、反射的に身をひるがえしていました。そばの階段を駆け登って逃げようとしたのです。でも、最初の踊り場で私は秋山さんに追いつかれました。
そこにはちょうど無人の給湯室があるだけです。私がそこに逃げ込むと秋山さんも入ってきて、後手にドアを閉じました。
「ま、まさか秋山さんとこんな所で…」
「まったく足が速いなあ。貴女にはいつも逃げられていましたね」
「つらいわ。私の事は忘れてください。秋山さんに昔、恥ずかしい姿を見られて軽蔑されて、本当に死ぬより辛かったのです」
「何を言うんです。僕に貴女を軽蔑したり出来るものですか。僕こそ苦労知らずのキザな、鼻持ちならない高校生だった。貴女にそう思われていたと信じていた。、それよりどれだけ貴女を捜したことか。百合子さんも僕も、とても貴女に会いたくて随分さがしましたよ」
「でも、あんな恥ずかしい事をしている女の子なんて、貴方に嫌われてもしかたがないのだと思って…私は、私は」
「とんでもない。僕は本当に貴女が好きになったのです。でもあの時の僕は軟弱で貴女を助けることも出来なかった。その事が僕はとても恥ずかしかった。何とあやまっても追いつかない程、僕は弱虫だった。一人前の顔をして芸術論語っていた自分がなさけない。許してください」
「あなたのせいではない。あの学校で先輩に逆らえない事は、私が一番よく知っています」
「最初会った時、貴女はそれまで僕が出会ったどんなお嬢さんとも違っていた。僕は一目で魅きつけられました。でも貴女の気高いまでのその美しさがどこからくるのかわからなかった。しかし相撲部に連れて行かれてあのりンチを見せられた時、初めてわかったのです。恐しくて辛い相撲部での生活が、貴女の悲しい美しさを作っていたのだと。僕が求めて魅かれていたのは、厳しい試練に堪える殉教者の美しさだったという事です」
いつしか彼の手が私の両肩に掛かっていました。私の体はわなわなと震えて、今にも崩れてしまいそうでした。
「その後、僕も運動部に入って少しは厳しい体験をしたつもりだ。その為かどうかはわからないが、かつての気障な芸術愛好少年が、今では野暮な商社マンに成ってしまったよ。しかし貴女の事は忘れたことがなかった。何年も何年も貴女の事ばかり考えてきました。さあ。あの時の約束を想い出してよ。僕とお友達になってくれると言ったでしょう」
暖かい大きな手が私の二の腕を外側からしっかり包んできます。頭の中が真っ白です。長い間私の中でどす黒くわだかまっていた、後悔と屈辱の塊が一気に溶けだし、熱い涙になって目から次々に溢れてきます。
こうして私は、今の主人とめぐり会ったのです。
10
夫はやさしく頼もしい、私には理想約な旦那さまです。得意の語学を生かして、会社でも充分腕を振るっているようです。今、お風呂から上って、二階の寝室から私の名前を呼んでいます。私は寝化粧を済まして丸裸になり、股間に真赤な木綿のお褌を締め込みます。実はこれが、新婚初夜以来の私の夜の仕度なのです。いえ、初夜以来でありませんでした。正確には結婚式の当日、私は純白のウエディングドレスの下に、もうこの褌をしていたのです。それを知っているのはもちろん旦那様と、着付けの介添えをしてくれたあの百合子さんだけです。
女子相撲部の時代には死ぬ程恥ずかしく、二度と締めまいと思っていた手拭い褌でしたが、いつしかそれが懐かしくて手放せなくなっています。又且那さまも私の褌姿が大好きだと言ってくれます。あの頃はヤセッポチだった私ですが、この頃はすっかり脂が乗り、お乳もお尻も豊かになって赤い褌がよく似合うようになってきました。
前立褌はもちろん細くよじって縦に喰い込む程に締め上げます。使い込んだ木綿が下の唇を分け、陰毛を両側に卑猥にはみ出させて、本当に恥ずかしい格好になってしまいます。この姿で私は、大好きな旦那さまの待つ寝室へ上ります。
ドアを開けると旦那さまは、正面のダプルベッドにバスローブ姿で腰掛けています。私は入口に直立したまま、新入部員の時の様に大声でご挨拶致します。
「旦那さま。褌かつぎの江美子が参りました。どうぞ今夜も可愛がって下さい」
そして旦那さまのご命令どおりに、室内をゆっくり歩きまわったり、股を開いたり、お尻を突き出したりして、褌の喰い込み具合を充分に観賞していただきます。
「江美子、お前のいやらしいお尻に赤褌がよく似合うぞ。明日はその格好でスーパーマーケットに買い物に行ってみるか?」
旦那さまにこんな言葉でからかわれると、私は本当に、昼間のスーパーマーケットの売場をロに買物籠をくわえ、お使い犬のように四つん這いになって近所の奥様達に笑われながら、褌ひとつで歩きまわっているような気持ちになってきます。惨めさがジーンとこみ上げてきて、紅しょうがのように全身をほてらせたまま、何度も何度も部屋中を這いまわります。
時には夫自慢のオーディオセットから流れる、バロック音楽に合せて裸踊りをおどらされることもあります。今夜二階から聞こえてくるのは、アルビノー二のアダージョでしょうか。あの、魂が消え入る様に華麗な旋律の中で、赤褌姿の女が両手をさしあげ、お尻を振り振り踊る、ミスマッチで滑稽な様子をご想像ください。
やがて曲が終る頃、やっと近づいて来た旦那さまが、立ったままの私を抱き、ピシャピシャとお尻を平手で打ちながら熱いキッスをしてくださるのです。気持ちが高ぶってくると、私は思わず、
「ああ、且那さま。吊って。吊ってください」
とさけんでしまいます。旦那さまの手が横褌をつかみ、私の身体は吊り上げられます。立褌がお股に喰い込み、私は旦那さまの胸の中で、硬くとがった乳首をバスローブの衿にこすりつけ、身もだえします。喜びの声がつい洩れてしまいます。背の高い且那さまは、吊り上げたままの私の身体を軽々と振りまわします。私はアッアッと小さくあえぎながら翻弄されて、立褌のその部分をグッショリと濡らしてゆきます。私は不様で幸福な一匹の蛙です。やがてボロ布のようにベッドの上にドサリと投げ出されると、蛙は仰向けに股を広げてひっくり返ります。恥ずかしい液でシミの出た立褌の其処を丸出しにして、私は両腿を夢中で開き続けます。旦那さまの指先が、布の濡れた部分を、下から上ヘ、下から上へとやさしくやさしく撫ぜ上げてくれます。それから私の身体を裏返しにして、ゆっくりと結び目を解いてゆくのです。

11 本当に私は今、幸福です。これもあの地獄のように思えた相撲部にいたおかげなのでしょうか。そして明日の日曜日には、もっと楽しい事があるのです。
昔、私の哀れな相棒だった百合子さんが遊びに来るのです。彼女はまだ独身で、御両親の元でお家の手伝いをしているのですが、やはりあの頃の事が忘れられなくて、夜一人でピキニパンティで褌遊びを楽しんでいるそうです。だから明日は二人で、当時の恥ずかしい初っ切り相撲を、大好きな旦那さまの前で再現してみようという事になったのです。
中庭には即席ですが土俵もつくりました。百合子さんは早速、懐しい手拭いの褌を製作し、一週間前から肌にならしているそうです。私は今愛用の赤褌を締めて、大いに旦那さまを楽しませてあげるつもりです。百合子さん十八番の「珍々踊り」もきっと且那さまを喜ぱせることでしょう。
そしてお相撲の後にはいよいよ褌をはずし、百合子さんと二人匹つん這いのお尻を並べて、旦那さまに濡れぐあいを比べてもらいます。いつも恥ずかしがって泣いていた百合子さんが、どんな反応をみせるのか今から楽しみです。男の人の前で恥ずかしい格好をする事が、こんなに嬉しいものだという事を早くおしえてあげたいのです。そして最後には、旦那さまから竹刀で、思いっきり痛いお仕置きを受けるのです。
江美子と百合子さんはいつまでもいつまでもスッポンポンの丸裸で、旦那さまにお仕えする幸せな相撲部の奴隷新入部員です。
ああ、でももしかして百合子さんがお相撲に勝って、そのご褒美に旦那さまに可愛がってもらい、負けた私はそばに立たされたままそれを見ていなければならなくなったなら、ああ、そんなことになったら私はどんなに悲しい事でしょう。いくら泣いても直立不動のままでは涙を拭くことさえできません。相撲部の練習所の壁際に裸のまま立たされた、あの記憶がよみがえります。久しぶりの涙はどんな味がすることでしょう。
それではこれから、褌かつぎの江美子は旦那さまが待っている、二階の寝室へ上ります。
今夜は少し待たせすぎたので、きっと何かうんと恥ずかしいお仕置きを考てらっしゃるかもしれません。
仕切りは充分待ったなし。はっけよい、のこった、のこった。
(了)
室井亜砂二 初出「SMセレクト」